女神の采配

□05
3ページ/5ページ





―…どれほどの時間が 過ぎたのだろう。

絵画を見ていたリンクは いつの間にか 眠っていたらしい。

ベッドの頭元で ナビィもすやすやと寝息を立てながら 眠っている。

頭上高くにある 天窓からは、月明かりが 差し込み、一階のテーブルを 照らしている。

リンクは中二階の端から 顔を覗かせる。

玄関の方へ 顔を向けている為、表情は見れないが エマロットも 疲れていたのであろう。

テーブルに伏せて 眠っているようだ。


ベッドに置いてあった ブランケットを手に取り、音を立てないように ゆっくりと、一階へ降りていく。

そっと、テーブルに伏せるエマロットに 近付くと 寝返りを打つかのように 顔をリンクの方へと 向けた。



「っ、」



エマロットの悲しそうな寝顔に リンクの胸は脈打つ。

なぜ、エマロットは こんなにも悲しそうなのか。

なぜ、自分と同い年のエマロットは 守護戦士となったのだろうか…。



「エマ…君は…一体…?」



リンクの視線は エマロットの深紅の髪へと 向けられる。

深紅の髪が 月明かりに照らされて、初めて出会った あの時のように キラキラと輝いている。

リンクは 引き込まれるように そっと、 エマロットへと手を伸ばした。



「何だい、灯りもつけないで。」



軋む木の扉の音と共に 響いた声に、リンクは慌てて エマロットの肩にブランケットを掛ける。

テーブルの上に山積みになっていた本を手に取り 読んでいるフリをした。



「えっ、あっ…おっお邪魔してます!」



入口には トレーに食事を乗せた 老婆が 立っている。

おそらく、親方の奥さんであろう。

老婆は テーブルにトレーを置くと、ランタンから 屋敷にある 燭台へと 炎を移した。



「静かに。エマが起きてしまう」



老婆は 眠っているエマロットに視線を向けながら リンクに微笑みかける。

リンクも 軽く会釈した。



「話は聞いているよ。エマと一緒に 任務中だって?
幼い二人を 任務に向かわせるなんて…。
城の兵士どもは 何してるんだい、全く…。」



老婆は トレーから 木の器に並べられたパンや牛乳、スープを 慣れた手つきで 並べていく。

リンクは 本に視線を向けると 上下逆さまに持っていることに 気が付き、慌てて持ち代えた。

沈黙が続く 老婆との間に 何か話す話題を…、と リンクは口を開く。



「あの…、あの絵って…?」



中二階に飾ってある絵画に リンクが視線を向けると 老婆もそれに気付いたのか 絵画へと 視線を向けた。



「ああ、あの絵画かい?ハイラルの商人に 譲ってもらったんだとさ。
あれは、"月の民の女王"様。
私も永年の歳月を 過ごしているが、1度も噂を耳にしたことがないよ。」

「…"月の民の女王"?」

「そうさ。インパ様が探している "古代遺跡"にある像なんだと。

何でも 砂漠にある神殿の 地下深くにある 神聖な場所らしい。

まあ、そこにたどり着くには 現地の人間が居ないと 到底たどり着けないが…って、インパ様は おっしゃっていたけどね。

本当にあるんだかすら 分からないんだとよ」

「何で インパさんは そこを探してるの?」

「私も詳しくは 知らないけど…エマが来た頃からだったか 突然に、ね。

さ、冷めない内に 食べなさいな」



老婆は 並んだ食事をリンクに勧めると 何かを思い出したかのように 懐から 瓶に入った赤色の液体を 取り出した。



「赤のクスリ…今なら瓶付きで 20ルピー…どうする?」

「えっ?」

「怪しい物じゃないよ。
私しゃ、クスリ屋を やっていてね。

今後、世話になる 代物だよ?」

「じゃ、じゃあ…頂きます。」

「…賢い子だね。また御贔屓に。」



老婆は リンクから20ルピーを受け取ると 笑顔を浮かべて 玄関へと向かう。



「トレーは、また 取りに来るからね」



扉の軋む音と共に 老婆は、屋敷を後にした。



『やられたわね』



隣で眠っていたはずの エマロットの声。

リンクは エマロットに視線を向ける。



「起きてたの?」

『ええ、少し前に。』

「…やられたって?」

『奥方さま、いつも ああなの。
毎回付き合ってたら 財布が持たないわよ』

「そうなんだ。でも 今日は、ご馳走になる訳だし…。一宿一飯の恩があるから…」

『ふふっ』

「僕、何か可笑しなことでも 言った?」



リンクは 初めて見るエマロットの笑顔に 少し戸惑いながらも 返答する。

そんなリンクも 吊られて頬が緩んだ。



『いいえ、笑ったりして ごめんなさい。
君って結構 律儀なのね。』

「初めて会った時から 僕は律儀だったと思うけど?」

『ふふっ、そうね。

さ、冷めない内に 頂きましょう。』

「うん、僕もうお腹 ペコペコだよー」



リンクとエマロットは テーブルに並べられた料理を おいしそうに頬張った。








.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ