桜花乱舞。

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「で、あいつが 待ち望んだ 勇者って訳?

ただの牧童にしか 見えなかったけど。」



ホロロゲイオンにある 風見鶏が、くるくると 回る。

暖かな風は 大地から吹き上げ、1枚の花弁を レースの天蓋がかかる ベッドへと 運んだ。


イリスは、椅子に腰掛け 肘を付きながら 頭を拭くアタシを 見つめる。



「うん。
あの眼差しは...間違いなく、勇者のものよ。」



月光色の髪から垂れる、一滴の水。

白いワンピースに 着替えたアタシの胸元を ゆっくりと伝い、流れた。



「ふーん...。

でもさ、勇者を探し出して どうする気?

鎖にでも 繋いどかないと、あちこち 行かれたら どうしようも ないじゃない。」



イリスは 頭の後ろで 腕を組むと、椅子にだらしなく もたれ掛かる。



「それなら、大丈夫。

彼とはまた、必ず出会える。」

「...何で、言い切れるの?」



アタシは イリスの不思議に湧く瞳を 見つめ、笑った。



「...そういう、運命だから。」

「...は?」

「風が彼を 導く。
さあ、アタシも 準備をしなきゃ。

イリス、留守の間 ホロロゲイオンの勤め、頼んだわよ。」

「ちょ、頼んだって...
アネモイ、何処行くつもりよ!」



慌てるイリスを 尻目に、再び翡翠色のドレスに 袖を通す。

風が集まる、ホロロゲイオンのお陰で ドレスは 完璧に 乾燥していた。

そしてアタシの手は、壁に立て掛けてある 扇へと 伸びる。

その扇を 背負うと、小さなポーチを腰に掛け 目の前にある 木の扉を開いた。



「何処って...決まってるじゃない。
アタシの使命を 果たしに行くの。」

「宛も何も、ないじゃない!」

「...それを探すのも また、使命よ。」





アタシの背後で、扉が閉まる 音がした。
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