ふわりゆらりと逃避行
□いつつ
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コンコン
「誰かいるか」
『あら、だれだろ』
法廷から帰ってきてしばらくした後、誰かが梢の元へ訪ねてきた
『よいしょ…あら』
「…どーも」
『月読ちゃん?』
「私の名を呼ぶな」
月読命、(梢曰く月読ちゃん)は天照大御神、素戔男尊(スサノヲノミコト)を上に持つ三貴子の一人で、月の神とされる。そのため、天照大御神とは対となる神である。
『今日はどうしたの?あなたが私を訪ねるなんて珍しい。あ、レモンティー飲む?』
「いらん。というか貴様、しっかりとした話し方は出来んのか」
『…疲れる』
「神と話す時くらいしっかりと話せ。…ったく、姉様はこやつのどこを気に入ってるのだ…」
『…つかれるのぉ。この話し方は』
梢の雰囲気が変わった。しかし、どこか余裕のある空気が残る。梢はわざとやっているのだろう。
それが月読命をイラつかせた
『しかし…なぜお主、我のことが嫌いなのだ?お主に何かやった覚えはないが…』
「姉様とお主が対ということが気に入らん」
『あぁ、そういうことか』
梢は別名蛭子(日ル子)、天照大御神は別名ヒルメ(日ル女)である。この二人は対とされているようだ。ちなみに、蛭子は男とされているが、神に性別は関係無いのだろう。梢を見ればわかる。
それが月読命には気に入らないようだ。まあ、男である故、ひどい嫉妬にはならないようだが。
『やきもちか?我に餅焼いとるのか?』
「誰がお主に焼くか。
というか、そんなことを話に来たのではない」
『あ、逃げた』
「なんとでも言え。
ほれ」
そこに出されたのはひとつの巻き物。読めということなのだろうか。梢は冒頭だけ読んだ。
『…これ、今亡者をやっている…』
「やはり亡者か。どこに住んどるかわかるか?」
『こいつは…阿鼻地獄だ。
…特殊な子で、よく覚えてる』
たしか、神と愛し合い、性行為をした、そしてその子を生み、死なせてしまったそうな。神の子を殺すのは神殺しも当然。阿鼻地獄なのも納得だ。
『お主、まさか』
「話は終わりだ。すまなかったな」
月読命は立ち去ろうとした。
『まて。
我は一度だけその子にあった事がある。』
「…」
『その者が子を殺したわけではないが…責任もあったのだろうな。自殺してここに来たそうだ。』
「…それがどうした」
梢は少し間を置いて、ニコッと笑うと
『言ってたよ。
「あの人と、その子が大好きだ」って』
月読命は、一瞬固まったが、すぐに「そうか」とつぶやき、部屋を出ていった。
『…鬼灯?いるんでしょ?』
「エスパーですか貴女は」
扉を開けて梢が言うと、鬼灯が曲がり角から出てきた。彼女は最初からわかっていたのだろうか
『盗み聞きはだめだよ』
「たまたま聞こえただけです。あと、資料返却しに来ました。」
『どーも』
「…月読命は…」
『さあね。一応私より格上なんだ。鬼灯や大王よりも。亡者をどうこうしようが、あの人の自由さ』
神ゆえに、どう仕様もないことがあるのだろう。それを彼女はしっている。もちろん、第一補佐官という職についている鬼灯も。
『さて、ちょっとお茶飲んでかない?の飲みかけのレモンティー。ご利益あるよ』
「それ完全に月読命の飲みかけですよね」
彼はどうやらレモンティーに手を付けていたらしい。ツンデレというか、なんというか。
『…ねぇ』
「はい?」
『鬼灯は…いや、なんでもない』
「気になります」
『痛い痛い!!!ほっぺちぎれる!!!』
その後、阿鼻地獄から一人の亡者が、突如天国行きになったそうだ。
その原因の人物は…