ふわりゆらりと逃避行
□ふたつ
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『…ありゃ?鬼灯?』
「…ああ、梢さんじゃないですか。書類は終わりましたか」
『もちろん。鬼灯がへらしてくれたもん。ね?』
そう言って意地悪く笑う梢。彼女は一応神であるため、そう言う事には鋭いようだ。
「わかってるなら溜めないでくださいよ。次から減らしませんよ?」
『いいじゃない。ほら、今日満月だからお月見でもどう?』
「お前仕事…」
『月見団子(黒蜜きなこ付)』
「…ご一緒させていただきます」
何だかんだで甘味に弱い鬼神である。
二人は中庭の階段に腰掛ける。
梢が持ってきたお茶は二つ
「伺いますが、何故二つ?」
『おかわり用』
「聞いた私が馬鹿でした」
普通なら急須や水筒を持ってくるものだが。感覚がズレているらしい。
「…というか貴女、どういうつもりなんですか」
『何が?』
梢はカラカラ笑う。
だが、鬼灯は気付いていた。
彼女は本当は笑っていない
「歴史の闇に葬りさられた神が、地獄でゴロゴロしてるって色々問題ですよ」
『そんで、私にどうしろと?
てか、なんでこのタイミング』
「唐瓜さんと茄子さんにあったでしょう?丁度いいかなと。それに二人きりで話す機会なんてあまりありませんし」
『そりゃそーだな』
鬼灯はいつもは仕事漬け、梢は資料室にこもりっきりのヒキニートである。二人が会うなどめったにないだろう
「とりあえず、外に出るようにはなって欲しいです」
『お前はお母さんか』
「…いつまでも、忌み子など気にしなくても良いと思いますが。」
『…』
「二人をからかうのもよして下さい。フォロー入れるの大変なんです。今度会った時ちゃんと本当のこと話して下さいね」
『さて、嘘なんて言ったかな』
「大体は嘘でしょう。
蛭子」
刹那、鬼灯の首元に当てられる手刀。もちろん、梢である。
そんな状況であるにも関わらず、鬼灯は動じない。
『その名は呼ぶな』
「名無し神など…まあ名無し神ですが。貴女は蛭子、という生物学上の名前で差別され、海に流された」
『やめろ』
「梢という名も、どこぞの誰かが付けた名。名付け親も知らない」
『やめろと言うたのが聞こえぬのか』
その瞬間、一斉に中庭の金魚草が固まる。恐怖で固まったのだ。
流石の鬼灯も危険をひしひしと感じていた