怪奇な娘と一人のみなしご
□そのきゅう
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今日は瑠璃は来れないようです。まあ瑠璃も一応巫女ですし、しょうがありません。
でも、昨日の瑠璃の様子は、少しおかしかった。
『近いうちきっと雨が降ってくれると思うの。そしたらさ、村まで降りてきな。贄なんか居なくても雨は降ったって言ってね。
大丈夫。いざとゆう時は私の神社のお師匠様んとこ行きな』
なぜ雨が降るとわかっているのかと聞くと、『神様からのお告げ』だそうだ。別れる時の手も、少し震えていた。
「…おや?」
遠くから、人の足音が聞こえた。それも、かなりの大人数。目を凝らすと村の人間が何人かでどこかへ向かっていた。
そして、その中に、巫女服を着た、子供。
直感でわかった。あれは瑠璃だ。いつもと少し違う巫女服で、お面を被っているけど、明らかに瑠璃とわかった。なぜ彼女が?今回の口寄せは大掛かりなものなのだろうか。
ぽつ。
頬に水が当たる。
水…?いや、雨だ。雨はぽつぽつと降ってきた。
これは、大雨になりますね。そんな事を思っていると、先程の村の人間がおりてきた。なにやら、かなり上機嫌だ。雨が降ったからだろうか
瑠璃は?
瑠璃がいない。
なぜ?さっきはいたでしょう。
どこに行ったのですか?まさか迷子ですか?こんな時まで…
「いやぁ、しぶとかったなあの化け物」
「あぁ。目の前で殺すだなんて、牛鬼様も無残なことが好きなんだろうねぇ」
「名前は…なんて言ったっけか?あの化け物」
「瑠璃って言ったっけか。でも化け物も退治できて、雨も降って一石二鳥じゃないか。今夜は宴だ!」
頭が、真っ白になる。
瑠璃が?生贄?殺された?
牛鬼…生贄を捧げると願いを叶えてくれると言われる。あれか。
そんなことはどうでもいい。
瑠璃は、もうこの世にはいないんですか?
雨が酷くなってくる。
でも、動けない。待ち望んでた雨なのに。
瑠璃、あなた、自分がもう死ぬからあんなこといったんですか。バカじゃないですか。
「あなたがいない世界で…生きれる訳ないじゃないですか」
ぽとり。
雨と共に何か落ちてきた。
「これは…ドクウツギ…?」
周りに生えていた木がドクウツギの木だったことに気付いた。同時に、瑠璃との以前の会話がフラッシュバックする。
『丁!それ食べんな危険!』
「何故ですか?美味しそうではないですか」
『それはドクウツギ。一見ピンク色の美味しそうな実だけど、食べたら30分で体に毒がまわって、死んじゃうんだ!絶対食べちゃダメ!』
「…変なところにだけ詳しいんですね」
『へっ、変なところ言うな!』
今思うと、この会話も懐かしい。
瑠璃すみません。あのとき約束しました。食べないって。でも無理です。ドクウツギを口に含んだ。
頭がぼーっとする。手足が痺れる。意識が薄れる。そんな中、色々な考えが頭を巡った。
なぜ最初から私を牛鬼の生贄にしなかった。なぜ瑠璃が生贄になった。なぜ私ははやく死のうとしなかった。なぜ、なぜ、なぜ。
「もしも、あの世というものがあるのなら、
村の人間に何らかの制裁を、加えてやる」
そう呟くと、私は意識を失った。
これが死ぬことなのか。
最後に頭をよぎったのは
瑠璃への、謝罪だけだった。