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□戻ってきたあのひと
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何も出来なくて
ただ涙する毎日。

あの日から、私の心は時を止めた。

ーー隣に君がいない。

そんな時間が、もう2年も続いたのだと気付いたら、

枯れたはずの涙がまた溢れてくる。



『ねぇ。いつになったらまた会えるの?いつになったら帰ってくるの?』



待ってろ、すぐ戻るからな。。。
そう言って部屋を出たあの日。



『すぐって、言ったじゃない…。』



別れの言葉すら言えなかった。











大きな墓の前。
大好きなオレンジの帽子を見上げる。

月夜に照らされた首飾りは、煌めいていて、なんだか吸い込まれそうだった。

声を殺しても、涙は泊まることを知らない。




『…そつ、き…、嘘つき!!もう!もう戻ってこないくせに!!!』



静かな海に響くのは、虚しい叫び。



『…たい、よ…』



言葉にしても、叶わぬ願いのはずなのに…



『会いたいよ…エース…。』




その声は細く小さく、

けれど、強い思いだった…。












「そんなとこいたら、風邪引くぞ?」

『っ!?』




幻聴。

それが聞こえたのは、背後から…。
心臓が止まるほどに跳ね上がり、呼吸が苦しくなるほど。

でも、遂におかしくなってしまったのかと冷静になる自分もいて、鼓動とは裏腹に溜息がでる。



「いつまでいるんだ?なぁ、聞こえてんだろ?」
『…もう嫌だな…』
「おい、千羽!」
『っ!?!?』



また聞こえてくるその声は、愛しい彼のもの。まだ忘れてなどいない。
忘れられないその声、いっそ全て忘れられたらいいのに。

呆れて言葉が見つからない私は、

その名を呼ばれた瞬間、きっと息はしていなかった。




【いるはずのない人】




『嘘、でしょ…?』

私の肩に触れたのは、確かな温もり。

誰よりも暖かくて、炎のような強いその手。




振り向けば、

もうこの世にはいるはずのない、

彼の笑顔があった。




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