P
□見えない夢に…
2ページ/4ページ
side:千羽
幸せそうに眠る義我が子を見ると、
このまま時が止まればいいと思ってしまう。
少し離れているだけで、どんどん成長してしまうエース。
喜ばしい反面、やっぱり寂しいとも思ってしまう。
『まだ甘えてくれるだけマシ、かな…』
「母さん…?」
『え?』
ふわっとしたエースの髪を撫でると、
薄らと目を開き、どこか遠くを見つめていた。
エースは私のことを"母さん"とは呼ばない。
意識がハッキリすると「ちぃ?」と、今度は私を見ていた。
さっきの母さんとは、本当のお母さんのことだろうか…。
だとすると、夢に、まだ見ぬ母親を見たのだろう…。
エースが帰ってから日が暮れたが、夕食をとる気になれず、海を見つめていた。
波の音を聞きながら考えるのは、昼前のエースのこと。
やはり、心のどこかでは、母親を求めているのだろうか?
自分は、本当の母親ではない。
どんなに想っても、それは事実として、消えることは無い。
『私は…母親"代わり"なんだよね…』
涙が溢れそうになった時、部屋の隅にある電伝虫が鳴った。
がちゃっと独特の音を取り出ると、その主は、海軍中将でもあるおじいちゃんだった。
「おー元気にしておるか千羽!」
『お、じいちゃん、どーして…』
「んー、まぁなんじゃ、少し声を聴きたくなってのぉ!」
『何かあったの?』
「こっちは何も問題はない!」
『じゃあ…』
「そっちは?何か変わりあるか?」
小さく間を開けて問うおじいちゃんの言葉は、私を見通してるかのようだった。
きっと偶然なのだろうけど、それが本能なのかもしれない。
何にせよ、今の私には、嬉しかった。
『おじいちゃん…エースの、お母さんのこと、なんだけどね?』
「ん?ルージュがどうかしたか?」
『…ルージュさんって、どんな人、だった?』
何を聞きたいわけではなかった。
ただこの不安をどうにかしたくて、
けど、どうしていいかわからなくて。
ただ、母という存在の意味を知りたかったのかもしれない。
「ルージュは強い女だった。」
『っ…』
「なんせ、あのロジャーの妻だ!エースを腹に宿し、それを守ろうとする彼女の姿はそりゃもう…」
『そう、だよね…』
「お前はルージュに似ておるかもしれんなぁ!」
『え!?』
「人とは違う血を持つせいもあるじゃろうが…エースを守ろうとするお前さんも、わしには逞しく見える。」
『でも…私は…』
「ルージュはもうこの世にはいない。今のエースには、お前が必要なんじゃ。」
―いない。
その言葉を聞いて、エースと初めて会った時を思い出した。
小さくて、守ってあげなければと強く思った。
この子をずっと、支えてあげなければ、と…。
「わっはっは!将来はエースもルフィも立派な海兵にするんじゃからな!頼んだぞ千羽!」
『っもう、おじいちゃん…それ、ばっかり…』
「元気になったようじゃな、安心したわい。それじゃ、2人にもよろしくな!また暇ができたら顔出すからのぉ!」
『うん、ありがと、おじいちゃん。』
がちゃっ。
また波の音が響き渡る静かな部屋。
私は静かに、涙を流した。
*