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□片思い卒業記念
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『好きです!付き合ってください!!』
『ずっと前から、好きでした!』
『先輩のこと、好きなんです!!』




片想いとわかっていても、
やっぱり好きでいることはやめられない。

告白する勇気もないくせに、
鏡の前での練習はいくらでも出来る。

どんな風に言ったらいいか。
どんな言い方が好きなのか。
どんな顔して、言えばいいのか…。




『…駄目だ。やっぱり無理。』




結局、練習はそれ止まり。
日向先輩の顔が浮かぶだけで、緊張してしまうのだから、
本人目の前にしたら、何も言えなくなってしまう。




『しかも私なんて眼中にないでしょ…。』




伊月先輩が好きな友達と一緒に挨拶をすることは多々ある。

でも私は、
友達と違って、全然話なんか出来ないのだ。




『名前すら覚えてもらえてないかも…。』









そんな寂しさを抱えていても、
好きな気持ちは消えてはくれない。




「今日は伊月先輩に差し入れ行くの!千羽もいく?」
『あ、うん!行く!』




会えるだけでいい、なんて思えないけど、
会えないよりは、少しでも見たい。




『で、でもでも!私なんも持ってない!?』
「うーん…差し入れ…"私で、どうですか…?"的な?」
『バカじゃないの!?!?』
「まーいんじゃね?」
『他人事やと思ってぇー』




とはいっても他人事だ。
私のことは私にしかわからない。





「まぁでもさ…何もしなかったら、それまでだよ?」
『っ…そう、だね…。』











「伊月せんぱぁぁぁい!」
「げっ…」
『…』




しかしあれはどうなのだろう…。
完全に引いてるのではないだろうか…。

そう思いはするが、私なんかよりよっぽど想いは伝わっているはずだ。




「伊月ぃー、部活始まる前に終わらせろよー」
『へっ!?』



体育館の入口で友達を見守っていると、
後ろから聞きなれた声がした。

思わず変な声をあげてしまう。




「ん?あんたはいいの?別に入っても大丈夫だぞ?」
『あ、いえ…私は…』




何もしない?出来ない?
そんなの、ただ勇気がないだけじゃないか…。




『…私…』
「ん?遠慮すんな、取って食ったりしねぇよ」
『…いえ』




不思議そうに体育館へ入っていく日向先輩。

私は…

そのあとに続く言葉を、飲み込んでしまった…。











放課後の裏庭。

美化委員で週に1度、水やりと掃除の仕事を任されていた。

ここは、体育倉庫に用がある場合以外、人が通ることは殆どない。
だからある意味、絶好の練習スポットでもあった。




『…はぁ。日向先輩、実はもう好きな人がいるとか…』

『いや、既に付き合ってるかも…。』




花に水が溶けていく。
キラキラとした花を目の前に、溜め息しか出ない。




『日向先輩…大好き…』




青空に吐いた言葉は、そのまま空気に溶け込む…




「っ…それ…俺に、言ってんのか…」
『っ!?』




筈だった。




『…なんで…』
「いや…今日…外練で使うやつを…体育倉庫から…」
『…あ、あー、な、なる…ほど…』




何度練習したかわからない告白は、
予想もしない今によって水の泡になったわけで。

今の状況をあまり理解できていない。




『あ、あ、あの!すいません!気にしないでください!』

「っ…ぃや…聞いちまったし…」

『ですよね…』




ドキドキして…

自分が何言ってるかもわからない。

というか…逃げて良いですか?




「あー、えっと…わりぃ…」
『っ…』




心臓が止まったかと思った。

謝られるかもしれないなんて、わかってたのに…




『いえ!良いんです!言うつもりなんて無かったし!私なんて存在も認識されてないもおも「や!そーじゃなくて…」…え?』




なんつーか…と目を泳がせている日向先輩。

否定された意味がわからない。
けど、
あまり期待させないで欲しい…勘違いしてしまう。




「毎回伊月に会いに来てたし、覚えてたよ。」
『あ…あれは…友達の付き添いで…』
「それも何となくわかってた。」
『…はい』
「そんで…」




勘違い、してもいいのだろうか…?

その問いが聞こえたかのように話す、日向先輩。




「実は柘榴さんは…俺に会いに来てくれてたんじゃないか…とか…自惚れてた…」
『っ…』

「あのさ…」




遠くから聞こえた笛の音。

さらさらと吹く風と共に届いた…言葉…。




「俺も気になってた、から…」
『…はい…』










【片想い卒業記念】




それは、

よろしくと共に出された手に、そっと触れられた瞬間。




(もう少し、お互いのこと知るとこから始めてみねぇか?)
(…はい!)




*fin*
 

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