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□君が愛しいと気付いたからで、
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あれ以来、俺は千羽を極力傍に置いていた。

それをからかう奴もいたが構わねぇ。




案の定、千羽はあの日の記憶は薄いらしく、何度も謝っていた。

それを口実に傍にいさせてるのだから、許してやる。









「エース、そろそろ島につく頃だぜ!」
エ「島に…?」
『っ』




何気なく過ごしていた日、不意にその言葉で凍りついた。
次の島に着くということは、今までなら冒険の匂いにワクワクしていた。だが、今は…

約束したことがある。

隣で聞いていた千羽を見ると、酷く不安そうな顔をしていた。
何と言葉を掛けたらいいのかわからなくて、大丈夫だとしか言えなかった。

何が大丈夫なんだ?




『あと、3日ですか…』
エ「あぁ。良い島みたいだ。そんなにでかくはねぇが、離れ島で、酒が有名らしいぜ?」
『そう、なんですか…』
エ「だから人の行き来も多い賑わった所だとよ!」
『…』
エ「そんなに心配するな…」




千羽の頭に手をやれば、驚いたようにこっちを見る。
精一杯笑ってやるしか出来ねぇ自分が情けない。
けど、これが限界だ。
千羽の幸せを思うなら、ここに残すのは間違いだろ?だったら、少しでも安全な所で生きて欲しい。

俺が傷付けちまったその身を、もう二度と、傷付けてほしくはない。




島に着く前の最後の夜。
千羽の別れの宴が行われた。
涙する奴もいた。それでも、最後は皆笑って過ごそうと決めてたようだ。

千羽も、楽しく終われるならいいだろう。























静かになった船。

俺は甲板で一人、海を見ていた。考えるのは、千羽のこと。
偶然出会って、気紛れで船に起き、長くも短くもない時を過ごして、明日、傍を離れていく。

何でもない。

数ある出会いと別れじゃねぇか。

そう言い聞かせてはいるが、きっと今の俺は、眉間に皺がよってる…。




『エースさん』
エ「っ!?千羽か?」
『何してるんです?』
エ「別に、海見てただけだ。」




不意に声をかけられた。
その主は、今俺の頭を支配してる奴で、一瞬だけ焦りを感じた。
千羽は隣で同じく海を見つめると、寂しそうに呟いた。




『聞き流して下さいね?』
エ「ん?」
『わかってますから。』
エ「なんだ?」
『ホントは、ずっと、怖かったです。』
エ「っ」




千羽の本音が聞けた。
最後の最後に、その胸のうちが聞けるとか、嬉しいような、よくわかんねぇ。




『でも、皆と…エースさんと過ごして行くうちに、今では…そんな思いなくて、』
エ「…」
『皆さんのこと。凄く好きです。』




今度は真っ直ぐに俺を見て言った。その目の奥は、なんだか寂しそうに感じる。



今日で、千羽とは、別れ……。




喉の奥まで出かかったのは、"残れ"という言葉だった。
それを押し殺して吐いたのは、本当に言いたいことを隠した言葉。




エ「俺も…千羽が好きだ。」
『!?』
エ「俺は自分の力を過信して、千羽傷付けた。けど、お前は俺に、礼を言ったよな。」
『そうでした。』
エ「たぶんそん時からだ。すげー女だって思ったのは。」
『…』
エ「船に乗ることになって、そんな風に、怖い思いしながらも、俺達に馴染もうとする姿見てたらさ、益々すげーって思った。」
『そんなこと…』
エ「千羽みたいな女、初めて会った。」
『っ』
エ「たぶん、他にいねぇよ。」
『エースさんみたいな海賊だって、他にいませんよ…』
エ「へへっ、そうか?」
『はい。』




これで終わりだと思う度、千羽への想いが溢れてきた。それは紛れもなく本心だ。けど、肝心の言葉は伝えることが出来ない。




『…エースさん!私「エース…」、え?』
エ「エースでいい。今更だけどな。…エースでいい。」
『…エース』
エ「…千羽、」
『っはい…』
エ「離れても、俺達は仲間だ。」
『っ』
エ「幸せに、暮らせよ…。」
『……あり、がとう…』




消え入りそうな声。
思わず、俺は千羽を抱きしめていた。
背中に回される温かな熱。
このまま、時間が止まればいいと、柄にもなく願ってしまう。























俺が君の手を、握り返したのは…




―離れていく、




[君が愛しいと気付いたからで…]




*2015.9.21




確かに恋だった様から頂いたお題C

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