P

□不安を消したかったからで、
1ページ/1ページ





千羽が目を覚ましてから、自身の話を聞いた。自分の村と両親を失くし、行く場所がないという。
海軍に保護されるも、信用はなかったらしい。

俺自身の話もした。海賊であること、ここはそのスペード海賊団の船で、船長をしていること、海軍に攻撃したのは、自分だということも。

千羽は驚いていた。当たり前だ。
普通の奴からしたら、海賊は恐怖の対象。その上、命の危険に晒されたんだ。平然としてられるはずがない。
暫く黙っていたかと思えば、ポツリと言葉を漏らした。



『そう、だったんですか…』
エ「すまねぇ。一般人が乗ってるなんて、知らなかった…。仕掛けられたから、やり返しちまったんだ。」
『…』
エ「女に怪我させるとか、男として最低だ。」
『…フフッ』



俯いて謝ると、目の前から笑いが漏れ、今度はこっちが驚いた。千羽を見ると、クスクスと笑ってる。
なんで笑ってるか、わからなかった。



「何がおかしいんだ?」
『ごめんなさい。海賊さんって、怖いものだと思ってたから。』



謝るなんて思わなかった、と、またクスクスと微笑む千羽。



『それに、助けてくれたのは事実でしょう?なんだか、不思議な海賊さんね。』



その顔は、俺の中に強く残っていて、その瞬間、千羽に惹かれたんだと思う。嬉しそうな、不思議そうな、優しい表情。
俺はなんだか照れくさくて、目を背けて頬をかいた。






















その後、俺は千羽と約束をした。
怪我の治療を済ませ、次の島まで乗せてやる、と。
成り行きだが、乗せちまったものを途中で放り出すわけにはいかねぇし、責任もある、と伝えれば、少しだけ不安な顔をして、お願いしますと言ってきた。




エ「あー、やっぱ怖いか?」
『…少しだけ。』
エ「大丈夫だ!仲間には言っとくし!気さくな奴らばっかだぜ?」
『…』
エ「面白ぇし!ガサツだけど、信頼はしてる!」
『…』
エ「いい奴らだからさ!」




必死にそんな言葉を並べることしか出来ないでいると、不安な表情から一変。またふわりと微笑んでいた。




『エースさんのお仲間さんなら、きっと素敵な人達なんだと思います。』
エ「っ!?」
『大丈夫です。よろしく、お願いします。』
エ「…っおう!」



その時の笑顔は、太陽のように温かくて、どこか、月のような光も感じた。
俺はその瞬間、千羽の手を取って、強く握りしめた。






















俺が君の手を握り返したのは…




―その笑顔に見え隠れる、




[不安を消したかったからで、]




*



*2015.09.16




確かに恋だった様から頂いたお題A

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ