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□夢で出会えた
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真っ白な世界。
見たこともない、何も無い場所。
まるで雪の中を歩いているよう。

しかし、見渡すと薄ら、いつもの景色が見えてきた。




「ん?」
子供「…」
「こども…?」
子供「あ…パパ、起きた…。」
「何で、ここに子供がいるんだよい?」
子供「ねぇパパ……」
「は?」
子供「ママがね……いないの…」

段々とはっきり見えてきて、初めに見えたのは空。
体を起こすと、見慣れた甲板と、小さな少女。
今にも泣き出しそうな表情で、自分を"パパ"と呼んでいる。

「な、何言ってんだよい!?俺はっ「ママ、どこ?」…ま、ま……?」
子「一緒にお昼寝してたのに…」
「あのよい…」
「パパ……」

不安そうに自分を見る少女。
その顔は、どこかで見たことがあるような、とても愛おしいような…。

「っ……」
子「みんなもわかんないって」
「皆?」
子「見てないって…」
「……お、おい」
子「ママ、遠くにいっちゃったのかな…」
「そ、そんなわけねぇよい!」
子「じゃあ何でいないの?」
「そ、それは…」

子供なんて、鬱陶しいとしか思っていなかった筈、なのに、目の前の少女を泣かせてしまうのは、心の底から嫌だった。
守りたい、笑顔でいて欲しい、こんなにも愛おしく感じる少女。

「き、きっと、パパに呆れたんだよい!!お前のせいじゃねぇ!」
子「パパに?」
「そ、そーだよい!」
子「……」

子供のあやし方なんて、どうしたらいいのだろう?
泣いてる愛しい人を、どうすれば笑わせてあげられる?

そんな事を必死で考えていたら、自然とその子の頭に手を置いていた。

ゆっくり、優しく、撫でてやればいい…。

子「ママね…」
「?」
子「寂しいって」
「っ…」
子「本当はね、寂しいんだよ」
「寂しい……?」
子「でも、パパが忙しいのは仕方ないから…だから、我慢してるの。」
「…お前…」
子「パパ?」
「………ん?」
子「探そう?ママのこと。」

涙を流しながら、小さく自分の手を握ってきた少女。
その顔は、やはりどこか、彼女に似ている。

「……そうだねぃ。」
子「見つかったらね、」
「ん?」
子「……」

手を繋ぎ、立ち上がる。
その小さな体に合わせるように、かがみながら歩くのも、悪くない気がした。

子「ちゃんと言ってあげてね!ママに!」
「……言うって…」
子「ママのこと大好きだって!」
「っ……」
子「ね?」
「わ、わかったよぃ……」

親馬鹿とは、きっとこんな感じなんだろう。
また泣きそうな顔をされては、答えは一択。

子「パパ照れてるの?」
「うるせぇよい!」
子「ふふっ」
「っ…!?」

そして、

ニッコリと笑った表情は、

やはり彼女と同じ、太陽のようにあたたかだった。

子「あ!ママ!!」
「っ!?お、おい待て!走ったらあぶねぇよい!──っ・・・。」
『……』




その手が離れると、小さな不安を残し、目の前がまた真っ白く包み込まれた。

必死で手を伸ばしても、そこには届きそうもない。

最後に呼んだ少女の名前。
そして呼ばれた、自分の名前…。








『マルコさん!?大丈夫ですか!!』
「…っ…チハネ!!」
『は、はい!』
「どこ行ってたんだよい!アイツが心配してたんだよい!」
『あ、あいつ?あの、マルコさん?』
「けど、無事でよかった…」
『ま、マルコさん!?』
「……ん?」

また目が覚めた。
今度はぼんやりとした世界ではなく、ハッキリと天井が見える。
そして見えたのは、彼女の姿。

それに安心したせいか、つい、思い切り抱きしめてしまった。

「……そういや、アイツは……?」
『あいつ?』
「……?」
『マルコさん、やっぱりまだ疲れてるんですね。休んでください!』
「……」
『お仕事、無理しすぎです。』
「っ…」
『…だから今日、倒れたんですよ。』
「……あー……」



そう。

マルコは夢を見ていたんだ。

自分と、目の前の愛しい人との、

幸せな、未来の夢。


心配そうに見つめてくる彼女を前に、マルコはそれが夢だったことに気づいた。


「悪かったねぃ…」
『いえ。無理しないでください。』
「……ちげぇよい」
『?』

夢で出会った小さな少女。

きっとその子は、未来から、何かを伝えに来てくれたんじゃないだろうか?

柄にもなくファンタジーなことを考えてしまうマルコ。


「夢で…教えてもらったんだぃ」
『……何をですか?』
「ん?…チハネに、寂しい思いさせてるってよぃ」
『っ…!?』
「だから、悪かったねぃ…。」
『そんな…こと…』
「けどな、そんなに心配してくれるお前が傍にいるから、頑張れるんだよぃ」
『マルコさん…』
「ありがとうな。」


再び彼女を抱き締める。

彼女から返される温もりは、いつもより2倍のあたたかさを感じた。

そして思い出す、少女との約束。


「好きだよい、チハネ。」
『…私もです。』
「いつか、今日見た夢、現実になるのかねぃ…」
『どんな夢だったんですか?』
「ん?……いつかわかるよい。」
『…そう、ですか。』


微笑み合う2人。
そして、どちらともなく縮まる距離に、小さくキスをした。




【夢で出会えた】




不思議な夢から数ヶ月。

ふたりが少女に出逢う日は、

あと、

ほんの少し……。




*fin*




2016.2.16
製作者:柘榴千里

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