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□愛してると囁いて…
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初めは成り行きだった。
一番隊の雑用をして頑張る姿に、たまには褒めてやろうかと、宴の席で共に飲んでいた。
何故か普通の女と違って、楽な酒の席で、俺も気を緩めすぎてたんだろう。
久々に自制が効かない飲み方をしちまったんだ。
気付いたら2人になってて、部屋まで送るはずが…俺の部屋に一緒に来てて、そのまま、流れで…。
普段、人見知りで海賊に似つかわしくない程お人好しな奴だったから、正直悪い事をしたと思ったんだ。
けど、謝ればどうだ?楽しかった、そういう時は誘ってくれなどと予想もしないことを返され、何も言えなくなったのを覚えてる。
それからたまに見かけると、今までの彼女とは別人みたいに明るく接してきて、めんどくせぇ女と違い、楽だった。
『セフレってどーです?』
「は?」
たまに飲んでは身体を重ねることが何度か続いて、出てきた言葉はまた俺を驚かせる。
女は面倒だと話し、付き合うだのが窮屈で仕方ないと話が一致した矢先だった。
何の躊躇いもなく、名案だと自信あり気に言う表情に、少し戸惑いながらも了承してしまったのは、やはり酒のせいにしておきてぇよぃ。
『ちょっと聞いてます隊長?』
「そーだねぃ」
『もーいいですー明日サッチ隊長に頼むから!』
「ぜひそーしろよぃ!」
『…ダメだ、あの人じゃ頼りにならない…』
「ハハッ!ひでぇな!」
事情後に、こんな風にふざけたりするのなんて無かった。
今まで、終われば直ぐ1人になりたいと思っていたのに、チハネは逆だ。
傍にいたいと思ってしまう。
チハネの隣が、一番安らぐことに気付いてしまったんだ。
それからは、その関係が痛いと感じるようになった。
雰囲気に呑まれたら、不意に言ってしまいそうになる"好き"という言葉。
それを我慢して、愛しい想いを隠すのは、俺の心を痛めつけていたんだ。
言ってしまったら、きっとチハネは離れてしまう。
それが、セフレという関係だから…。
けどよぃ。
やっぱり、気持ちに嘘をつき続けるなんて、できねぇ…。
チハネが誰かに笑いかける姿をみたり、他の隊長を頼ったりする姿を見て、隠しておくのが無理になったんだよぃ。
離れてしまうなら、
違う形でまた築けばいい。
そうしたらきっと…
「チハネ、今日から俺の補佐に着け」
『…はい?』
「お前は俺の傍に置いておく。隊長命令だ」
『え…と、拒否権は』
「勿論、ないよい!」
『ですよねぇ…』
俺はチハネの手を取り、部屋まで連れていく。今日の仕事はまだ山ほど残っているのだから、補佐に手伝わせるのは特権だ。
『ちょっ!?待ってください隊長』
「あ、あと、」
『えっ!?…んっ』
「チュッ…んっ。」
『な、なななな!?』
「俺の女になれよぃ。」
驚き、目をまんまるくするチハネに笑いが込み上げてくる。
それでも、もうこの手は離してやらねぇよい。
「チハネ、愛してる…」
『…マルコ隊長っ』
「少しずつでもいい、今度は…違う関係が築きたい。」
『…』
「だからまた、傍にいてくれよぃ」
強く握り返された手は、肯定の意思ととっておく。
頬から落ちる涙の意味を知るのは、この後の話だ。
【愛してると囁いて…】
キスをすれば、愛してると返ってくる。
両思いだったってことはよぃ?
きっと、
セフレという関係は、大切なきっかけだったんだろう。
*fin*
2015.9.24
→あとがき