W

□きっと大丈夫
1ページ/1ページ





広い甲板に1人、大きな海を見て溜息をつく。

ここに来てからもう1か月が経った。

いまだに、帰れる兆候は見られない。

そんな風に考え始めると、やはり眠れなくなってしまう時もある。

そして無性に、涙が込み上げてくる。


月の照らす穏やかな海を見ていると、自然と声を上げずに泣けるんだ。


静かな風が吹き頬を撫ぜる。

それがまた心地よい。



「何してるんだ?」




不意に背中から声がかかった。

振り向けば、眠れねぇのかよい、という言葉と共に傍に寄ってきた、マルコ隊長。

私は反射的振り向いてしまったが、表情を見られまいと急いで海へと向きなおった。




『ええ、少し、考え事をしてました。』

「そうか。」



でも、きっと気付かれてしまっただろう。

だから目元を拭って、いつも通りに戻ろうと必死になる。

隣に来た気配を感じると、彼は小さく、我慢するなよぃ、と呟いた。




『…すいません。』

「謝ることねぇ。突然こっちに来たんだ、不安もあるだろう。無理しなくていいよぃ。」

『…』

「あー、俺はいない方がいいかぃ?」



また、涙が込み上げてきた。

助けられたその日から、まだ少ししか一緒にはいないけど、

マルコ隊長はいつも優しくいてくれる。

今の私には、それほどありがたいことはない。


私はそっと、離れていくマルコ隊長の服を引いた。




『…、ない、で…』

「…チハネ?」

『いか…ないで…くださ、い…』

「…わかったよぃ。」




迷惑かもしれない、けど、今はまだ、その優しさに甘えさせてほしい。

そんな思いが優りたっての願い。

マルコ隊長は何も言わず、私が泣き止むまでずっと、傍にいてくれた。

そっと肩に感じた温かさが、心の底から安心させてくれる。
























きっと、その日からだ。

勿論毎日色々気にかけてくれて、傍でお仕事を手伝っているということもあるが、

たぶん、決定的な瞬間はそれ。

私がこの船に、安心できる場所を見つけて、

彼が特別になったのは。




『マルコ隊長!おはようございます!』

「おはよぃ。」

『今日も素敵な語尾ですね☆』

「まずは甲板掃除でもしてもらおうかねぃ…」

『え、それは一人でですか…』

「嫌とは言わせねぇよぃ。」




マルコ隊長には、素の自分を見せられるようになった。

彼も、少しだけ距離を縮めてくれているような気さえする。

だから、

今日もこの海を見て、頑張ろうと思えるのだ。




『…よし、頑張るよぃ!』




まだ帰る道しるべはないけれど、




大丈夫と言ってくれる皆と、マルコ隊長がいれば…








【きっと大丈夫】









(あ!マルコ隊長終わりました―!)
(んじゃこっち手伝えよぃ)
(了解ですよぃ!)

(チハネちゃんってマルコには心開いてるよな)
(マルコだって満更でもないでしょ)
(良い雰囲気じゃねぇか)
((えぇ〜〜?))




*fin*




2015.9.12
製作者:柘榴千里




一応長編の[深海ユートピア]番外編のつもり。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ