深海ユートピア

□〜もう一つの世界で〜
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〈もうひとつの世界で〉






















グランドラインの真ん中。

大きな嵐が過ぎ去った次の朝、白ひげ海賊団の一部クルーが、近くの難破船の調査をしていた。

船は使い物にならないくらい破壊されているが、まだ貯蔵庫は残ってるようだ。




「マルコ隊長!中に入れそうです!!」

マ「わかったよぃ。そのまま中調べてくれ!」




能力者以外は水面からも調べているようで、けっこう大きな船である。

空から見渡すマルコは、少し疑問を感じていた。




マ「昨日の嵐でやられたにしちゃ…ちと派手すぎる…海王類に出くわしたって言われた方が納得できるよぃ。」

「隊長!!中に人がいやした!!」

マ「人???」

「女です!まだ生きてますよ!」

マ「…」




ボロボロになった甲板に降りると、引き上げられた少女がいた。

服装からして船の船員だったわけではなさそう。人拐いにあったのだろうか。それにしてはそんな傷1つ見当たらない。




マ「とりあえず、モビーに連れて帰る。お前らはもう少し調査をすすめて、宝や使えそうなもんは運び込めよぃ!」

「「了解です!!」」




少女を抱えると、マルコは海賊船モビーディック号に戻っていく。

何故か、少女からは不思議な力が感じられてならなかった。

それが何なのか、白ひげに伝えなければならないと、根拠のない直感で感じていた。






















少女が目を冷ますと、見たことのない天井があった。寝ているベッドは少しユラユラと揺れ、地に足のつかない感覚。



『…ここは…?』

「目、覚めたかよぃ。」

『…?』




少し離れた窓際の椅子に座っているのは、金髪で変わったヘアスタイルの目付きが悪い男。
物凄く、警戒しているようだ。

意識のハッキリしない少女は、1度は目を閉じると、小さく呟いた。




『なんだ…夢か…』

「寝ぼけてねぇで、起きたなら覚えてること話せぃ。お前、なんであの船に乗ってたんだ?」

『…船?…あぁ…そうだ、私、旅行で…』

「旅行?どうみても海賊船だったよぃ!旅行中に人拐いにでもあったのか?」

『人拐い…?いや、旅行先の船が…嵐にあって…私、溺れて…』

「…たまたまあの船に居合わせたのか?」

『気付いたらここに…』

「覚えてねぇってことかよぃ…。んじゃ、まぁ一般人ってことか。」

『…………夢?』

「だから、寝ぼけるのも大概にしろよぃ!」




いつの間にか側に来た男は、少女の頭をコツンと叩いた。

それは少し痛みを含んでいて、少女を現実に引き戻していった。




『夢じゃないの!?』

「あぁ、現実だよぃ。」

『だって目の前でパイナップルヘアの人が!!!』

「…それは、俺か…?」

『あっ…』




さっきより強い痛みが少女の頭に与えられる。女だからって容赦はなかったようだ。

そして改めて、少女は尋問を受けることとなった。




「で?どっから来たんだよぃ。」

『どっから…というか…』

「…それも覚えてねぇのか?」

『………』


二人はしばらく見つめ合う。勿論トキメキとは程遠い、両方とも睨むような血相で。



『ここ、どこですか?』

「グランドラインの南の海だぃ」

『…ここ、どこですか?』

「あ?ここって、船のことかよぃ?…白ひげ海賊団のモビーディック号だぃ。」

『………貴方、誰ですか?』

「俺はマルコ…って!俺が質問してんだよぃ!!なんで逆に聞いてんだぃ!!」

『マルコ…』

「…お前、大丈夫か?自分の名前はわかるかよぃ?」

『……千羽、です…』




焦点が定まらない千羽はいま、混乱していた。
自分がいた世界とは違う、けど自分が知っている世界に来ていることに。

そんな千羽を見て本当に心配になってきたマルコは、とりあえず、白ひげにこのことを報告にいくことにする。

外に待機させているクルーに一言言うと、部屋から出ていった。




『私………死んだのか?』


手を動かしてみると、少し打ったような痛みが走る。それはもうハッキリと。それが死んだのではないと語っていた。


『え?じゃあ夢?夢でも痛いのか?痛みで目が覚めることはあったけど…夢のなかで痛いってある???』


そんなことを考えても答えはでなかった。

そして、違う思考に切り替える。
こうなるまでの経緯、自分の置かれてる状況、これからどうするべきなのか。

冷静になれるはずはなかったのだが、夢にしろ現実にしろ、今自分が危険なのではないかということは、混乱ながらも感じていた。


『マルコって…白ひげって…エースのいる海賊団だったよね…』


すごく強いのは知っているが、どちらかというと麦わら海賊団に会いたかったと、少しばかり余裕が出てきたのは、ここに独りだからだろう。

とりあえず、殺されないことだけを考えることにする。












しばらくすると、マルコが帰ってきた。そして一緒に、白ひげのところに行くことになる。
緊張と混乱、不安が身体中を占めているのがわかる。だが、想像してたよりも、マルコが優しいことに気づく。




マ「そんなに震えんなよぃ。とって食ったりしねぇ。オヤジならきっと、なんか対策してくれる。」

『あの…疑わないんですか?記憶が曖昧とか…得体が知れないじゃないですか…』

マ「まぁな。けど、本当に死にそうになってたのと、今本気で不安になってるのみたら、疑ってられねぇよぃ。」

『…優しいんですね』

マ「それに、万が一ってことになっても、お前に負ける気はしねぇ。」




ニヒルの口で笑う表情は、自信に溢れている。それに少し気が紛れた千羽。これもマルコなりの優しさなのだろうと思った。





大きな扉を開けると、そこには白ひげがいた。

初めて見る、大男。同じ人間とは思えない…いやもはや人間ではないか、と、一人でひきつってしまう。




白「おめぇが難破船にいたってゆー小娘かぁ?」

『っ…はい!』

白「グラララ!そんなに堅くなるなぁ!で?名はなんてんだ?」

『も!申し遅れました!私、椿千羽と言います!旅行で船に乗っていたら嵐に合い、波に飲まれて死を覚悟して!気付いたら白ひげ海賊団の皆さんに助けて頂いてました!!』

マ「落ち着けよぃ千羽…」

白「グララララ!そんなに俺がこえぇか?」

『怖い?…いえ、怖くは、ないです。』

白「んー?」

『白ひげさんは…私を助けてくれた人達の船長さんですから、怖くなんかないです。』

マ「お前…」



本心だった。

白ひげを目の前にした瞬間、何故か安心したのだ。
ただ、恩人に失礼があってはならないと、緊張は解けないままで。
それに、白ひげ海賊団の人のよさは、知っている。マルコと話して、それも実感したのだ。



白「グララララ!肝が座った小娘じゃねぇか!グララララ!」

マ「意外だよぃ。」

白「話してみなぁ、てめぇの本当のことをよぉ」

『…嘘はついてません!でも、確かに話してないことはあります、信じて貰えるか、わからないので…』

白「聞いてみなきゃ何とも言えねぇな」

『そう、ですよね…』



意を決して、千羽は自分のことを話した。自分がこっちにくる直前、何があったのかも。
二人は黙って最後まで聞いていた。

恰も信じがたいことではあるが、この海で有り得ないことなど、数限りなくある。そしてなにより…




マ「違う世界ね…」

白「まさか本当にあるとぁなぁ…」

マ「?オヤジ、なんか知ってんのか?」

白「昔、このグランドラインの最南端で語り継がれたという話を聞いた。だが、そりゃ…悪魔の実の話だ。」

『悪魔の実!?』

白「その南の海底深く、とても人が踏み入れる事の出来ねぇ、海王類の住み家に…そらぁ存在する。」

マ「海王類…」

白「世界を渡ることのできる伝説の悪魔の実…。誰も口にしたことなんかねぇだろうけどなぁ…確かにそれは、存在するんだとよぉ…。」

『世界を…渡る?』

白「それをおめぇ、使われたんじゃねぇのかぁ?」

『…なんで、私が…』

白「そこまではわからねぇなぁ…。」




沈黙が続いた。

世界を渡る力…。そんなものは自分の世界にはない。はずだ。

だとすると、すでにこちらに干渉していたのだろうか。

わからないことだらけだった。



マ「じゃあその悪魔の実を探せば、また戻れるんじゃねぇのか?」

白「可能性は…ある。」

『悪魔の実か…』

白「これも何かの縁だ、なぁマルコ」

マ「…はぁ。あんたも面倒背負うのが好きだよぃ。」

白「グララララちげぇねぇ」

『?』

白「千羽、この船に乗れぇ!ここでその悪魔の実、探して貰おうじゃねぇか!」

『っ…白ひげさん…』

白「ここに乗るからにはそんな堅苦しいのは許さねぇぞ!今日からおめぇも俺の娘だぁ!俺を親父と呼びなぁ!」

『私が…娘?』

マ「オヤジは一度決めたら曲げねぇんだよぃ。面倒だが、ま、宜しくな、千羽。」

『マルコさん…』

白「グララララ!今日は宴だぁ!みなに伝えろマルコ!」




その日、千羽はワンピースの世界に飛ばされ、白ひげ海賊団に拾われた。

何の因果か、神の悪戯か。

これから、一人の少女の、一時の物語が始まる。









*to be continued*
 

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