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□甘い香りなぬくもりに
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朝日が気持ちいいと、また思えるなんて…。

「ん…朝…」




隣には、まだ夢の中であろう、彼女の寝顔が…。

「夢じゃ…ないんだ…。」

ずっと悪夢を見てきたから
朝は必ず不安になってしまう。

時々、

自分はおかしくなりすぎて
幸せな夢を空想してるんじゃないかと感じる。

「っいて…うん、夢じゃない。」
『ウキョウ?』
「あ、ごめん、起こしちゃった?」
『ううん。起きてた。』
「ええ?!そーだったの?じゃあ寝た振りしてたってこと!?」
『ふふっ』
「あーもう…俺が頬つねってたのもバッチリ見ちゃったわけか…」
『だね。』




こんなやり取りが本当に幸せだ。
どんなことでも笑ってくれる彼女がいれば、きっと大丈夫だと思える。

『おはよう、ウキョウ。』
「…うん、おはよ、千羽。」









「ただいまー!」
『おかえりなさい!』

家に帰るってことが、そもそも新鮮なんだけど、
その上、彼女が出迎えてくれるなんて…。




「あれ?なんだか今日は…甘い香りがするね…」
『え!?そんなに?』
「うん…」

お帰りの言葉と共に、抱き締めてくれる温もり。

いつも安心して、ついそのまましばらく動かないんだけど、
今日はいつもと違う…。

「いつもは珈琲の良い匂いだけど?」
『今日はね、ケントさんに教わって、キッチンの仕事をしたの!主にケーキとタルトをね!』
「ケントが教えたの!?あのケントが!?」
『うん!とても解りやすかったよ?』
「そーなんだ…なぁんかめんどくさそうだけどなぁ…」
『うーん?』
「って!?君!どうしたのその腕!!!」
『え?』




不意に見えた腕の傷。火傷の跡?

過保護と言われるかもしれないけれど、どうしても気になってしまう。




『少しオーブンに触っちゃっただけ、大丈夫だよぉ』
「いけません!ちゃんと手当てしとかないと、跡が消えなくなったら大変でしょう?」
『跡残ってたら、嫌?』
「嫌とかないよ!俺は君が君のままでいてくれるのが一番。でも、やっぱり、痛かっただろうなとか、考えちゃうんです!」
『そっか…ありがと!』
「それに…」




今は
俺が傍で、支えてあげられる。
傷つけるんじゃなくて、守ってあげられる…。

だから…。




「これで大丈夫、かな」
『うん、ありがと、ウキョウ』
「あ…」




ふわりと彼女から香る。
甘くて良い香り。



「お、大袈裟だよ千羽…」
『そんなことない!ウキョウが私のことちゃんと見ててくれて…傍で助けてくれる…。私、幸せだよ?』
「っ…」
『そんなウキョウが大好き!』




苦しいくらいのぬくもりは、
甘くて温かかった…。




【甘い香りなぬくもりに】




(え!?どうしたの!?ウキョウ??)
(あぁ!ご、ごめん…なんか…)




不意に涙が溢れた。




*fin*




*
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