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□2章
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ピッピが帰ってきたのはもう電車も動き始めた頃だった。ヒロは、ソファで眠っていた。安らいだヒロの寝顔を眺めピッピは笑みを零す。自分の着ていた上着をヒロへそっと被せると先ほど狩ってきた男の腕を冷蔵庫へ投げ入れる。

それでも血の匂いは部屋中に充満していてピッピは不快そうに眉を寄せ窓を開ける。キッチンからヒロの眠っているリビングを覗きこの匂いで起きてはいないか確認するが問題はないようだった。ピッピはキッチンの窓際にストックしておいた煙草を咥え慣れた手つきで火をつける。

一服したところでシャツを脱ぎそのままシャワー室へ向かう。首を切り飛ばしたせいで豪快に血がついてしまった。

「ヒロにまた怒られちゃうな……」

洗濯は主にヒロがやってくれている。血を落とすのは少し手間がかかるからとよく自分も赤い服を着ろと怒られる。それでも頑なに青色の服を着るのは特にこだわりがある訳ではない。わけではないが、今更赤色の服なんて派手すぎて着る気になれないでいるのも本音だった。

***

ヒロは水がはねる音で目を覚ます。

まだ眠そうに何度か寝返りをうつが前触れもなくガバッと勢いよく起き上がる。

重い瞼を気合で開き辺りを見回す。

昨日は、ピッピの帰りを待ってそのままソファで寝落ちしたらしい。お陰で身体の節々が傷んだ。

暫く何をするわけでもなくボーッとしていると

「ああ、起きたんだ。
おはよう、ヒロ」

黒いスウェットパンツをはいてタオルを頭に乗せるだけのせたピッピがシャワー室の方から現れる。

「ん……」

一度、ピッピの姿を確認したあとまた目を閉じる。
目を閉じ微動だにしないでソファに座っているとコポポポポッとこ気味いい音と共に珈琲のいい香りが鼻腔をくすぐった。

「私も飲む」

ヒロのいるリビングとピッピがいるであろうキッチンの距離は少しだけあるがその間をカウンターのように空間が開いていて両者から相手を見られるようになっている。

だから、声を張り上げずともお互いの音は聞き取れる。

現にピッピは食器棚からコーヒーカップを二つ出す。(食器を置く音が二つだったことから推測した)

「はい」

暫く待っていればズイっと目の前にコーヒーカップを出される。珈琲の香ばしい香りと僅かに感じる湯気にゆっくりと目を開ける。

「んー、ありがとう」

カップを受け取ると伸ばしていた足を自分の元に引き寄せて体育座りの形を取ると膝頭にカップを置いてカップ内の黒い液体を眺める。

「ミルク……はいってないでしょ」

ソファの肘掛け部分に腰を降ろしてカップに口をつけていたピッピを見上げる。

「うん、入ってないね」
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