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□序章
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喰種ーー人間の肉を喰らい生きる怪人。彼らは、水と珈琲を除けば人間の肉以外を捕食することが本能的に不可能とされている。
東京都に巣食うは怪人の闇かそれとも……。

「ふぅ…………。寒っ」

髪は真っ青なのに対して真っ赤なツナギに真っ赤なマフラーというファッションセンスの欠片も感じない女性の呟きは誰かに届くことなく宵闇に溶けていった。

「ヒロ」

そんな中、元から居たとでもいうかのうようにスッと暗やみから現れたのは彼女と同じ真っ青な髪色に青いダウンコートを着た痩せ型の男性だった。

「ああ、ピッピか……。今んとこ動きはないよ」

街灯のてっぺんにしゃがみこみ3時の方向を熱心に双眼鏡で眺める赤いツナギの女は簡潔に現時点での状況を伝える。

「そっか。まあ、相手側だってそんなマヌケじゃないだろうからね。そう簡単には、尻尾を掴ませてくれないか……」

「ったく、やってらんないね。寒いしさ」

赤いツナギの女−−ヒロは、双眼鏡を街灯に寄りかっている青い男ーーピッピへと落とすとマフラーに顔を埋めた。

「グルメは、なにやってんのさ」

「ああ、彼は……少々気分屋なところがあるからね」

上から降ってきた双眼鏡をキャッチするとピッピは尻ポケットへそれを押し込むと慣れた手つきでコートのポケットから煙草とライターを取り出す。

「は?吸うあわけ?ここで?今?私がいるのに?」
「いいじゃない、一本くらい」
「煙草一本辺りは、寿命を14分も縮めるって言ってた。お前は自分の為に私の寿命を縮めるのか?」
「……ヒロだって吸うよね?」
「吸うよ?吸うけど他人が吸った煙を吸うのはヤダ」
「わがままだね。じゃあ、ヒロも吸えば?それならどっちの煙か分からないでしょう」

ピッピは、自分の咥えていた煙草に火をつけるとライターと箱をヒロに投げる。

「喫煙勧めてくる兄とかヤバ」
「はいはい」

文句を言いつつヒロもまた煙草に火をつける。

「ハァァァァアアアー…」
「ヒロ、近所迷惑。」
「だってさァ、あんまりにも暇なんだもん。
暇で暇で暇で暇で…………もういっそかちこんだ方が早い」

街灯を軸にして身体をゆったりと振り子のように揺らすヒロ。

「ヒロ。あんまり暴れない方がいいよ。
折角の洋服に、灰が着いちゃうしね」

「ッチ、はいはいはいはいはい、止めます止めますよっと」

ヒロは、言葉の通りピタッと石のようと表現しても差し支えがない程に姿勢を固定した。

「降りてこないの?」

「んー。タバコは高いとこで吸うのがうまい」

そうしてヒロは煙草を吸うとゆっくり煙を吐き出した。
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