story

□帰る
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大空を超スピードで飛ぶ、薄紫の髪の少年と、顔に傷がある青年。
二人とも疲れた顔はしていたが、やり遂げたという思いでいっぱいだった。

未来からやってきた少年トランクスは、もともとの目的以上の成果に満足していた。

自分のいた未来世界に起こった悲劇は、この時代の未来には訪れない。

未来世界に帰れば待ち受けている悪の権化、人造人間やセルを倒す力も身に付けた。




「ええっ!父さんが?」
並んで飛んでいたヤムチャの意外な話にびっくりした。
「そうなんだ、あのベジータが、お前が殺された時、なりふり構わずセルに突っ込んで行ったんだぞ!」
「そうなんですか。」「よっぽど頭にきたんだろうなあ〜」
冷たく、自分勝手な父。初めて見てからの印象はこうだった。しかし、少しばかりではあるが、人間らしい感情を息子である自分に向けてくれたことが、ヒドく嬉しかった。
ヤムチャと別れ、カプセルコーポレーションの上空までくると、庭で赤ちゃんトランクスを遊ばせている若い母の姿が見えた。

「ただいま、母さん」
「トランクス!無事帰ったのね〜うれしいわあ!」
ふと、戦闘服の胸にある大きな穴に目が行き、青ざめるブルマ。

「……ひょっとして…」
母の動揺を察したトランクスは
「そうなんです…実は、セルに一度殺されました」
「ええっ!やっぱり…えっ!じゃあ、シェンロンに頼んで生き返らせて貰ったのね」
「はい、みんなが神様の宮殿で、シェンロンに頼んでくれました。」
「良かったあ…お母さん心配で心配で…生きていて本当に良かった…」
自分の息子が無事戻ったこと。これ以上嬉しいことは無いだろう。涙ぐんで喜ぶ母親に、一つだけ言いたくない事実を話さなければならない。
「それで、母さん。悟空さんなんですが…」
「孫君がとどめをさしたんでしょ?」
「いいえ、違います。自爆を仕掛けたセルを瞬間移動である場所に連れて行きました。そして…」
「分かったわよ、もうそれ以上言わなくていいわ…」
「そして、生き返ることを拒否しました。何でも、あの世で修行するらしいです」
「そう……孫君らしいわね…淋しくなるわ」
ブルマはチチのことを思うと、胸が痛んだ。
愛する人と二度と逢えない悲しみはいかばかりか。

姿も声も(声は怪しいが)匂いも、暖かさも、もう感じることが出来ないのだ。

「チチさんお気の毒に」
「ええ…」
「そういえば、ベジータ…いや、お父さんは?」
「父さんはまだ帰って無いですか?」
「まだよ…アイツ、孫君が死んじゃったから、ここから出て行っちゃうかもしれないわね」
少し悲しげな表情をする若い母。
「そういえば、父さんは僕が殺された時、なりふり構わずセルに突っ込んで行ってくれたそうです。」
「えっ!それは本当なの?」
「はい、ヤムチャさんに聞きました」
「そうなの…」

愛したからこそ、ベジータとの間に子供がいるのは事実だ。
今までのことを思い出すと、決して愛しあってるとは言えなかったのだが、人間らしい感情を初めて示した彼が帰って来るまで待とうと思った。
「とにかく、シャワーを浴びて、着替えてらっしゃい。そのあとでもう一度髪の毛を切るわね」
「はい、母さん」



シャワールームで体を洗い、着て来た服を身に付け、リビングルームに向かうと、腕を組み、空のどこか遠くを眺めている父の姿があった。
既に戦闘服ではなく、開襟シャツとパンツといういでたちである。
「父さん!先に帰ってたんですか」
「まあな…」
「オレ、嬉しかったです…セルに殺された時…」
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