story

□命
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世界に平和が訪れて三か月ほどたった。

世界を救った戦士の母であるチチは、少しずつではあるが、夫の死を受け入れ始めていた。

ちっとも働かないことで、よく文句を言ったりしていたが、もうその相手もいないのだ。

ふとした瞬間にギュッと抱き締めてくれたあの胸の高まり。温かくてたくましい胸にいだかれれば、全ての不安は消えて無くなる。それも二度とかなわない夢になってしまったのだ。

夢の中だけでも逢いたい。そう思いながら、寝間着を裏返すという古来からのまじないをして休んだこともあった。
日中は息子の悟飯の世話と家事に追われ、悲しい気持ちも感じること無く過ごしていることが出来た。
息子の寝顔に亡き夫の面影を見出し、一人涙した日も度々であった。
あとは、二人の愛の結晶である息子に立派な未来が訪れるのを信じる毎日であった。

そんなある日。
雲ひとつ無い晴天の下、洗濯ものを干すチチ。主婦は晴天が大好きだ。
「さぁて、干すだ!たまってたもん全部乾かさねばなんねぇもんなあ!」

籠から取りだし、竿に干す。また籠から取りだし竿に干す…ということを繰り返しているうちに、だんだん暗くなってきた。それどころか、周りが霧がかかったように霞んでいる。
「あれ?急に天気が悪くなって……き…た…だか…」
くらり…うずくまるように座り込むと、そのまま崩れるように倒れ、意識を失ってしまった。
「お母さん?」
勉強中だった悟飯は、母親の気が一気に萎むのを感じ、慌てて外に飛び出した。

そこには、青白い顔で倒れている母親の姿があった。

「お母さん!!どうしたの?うわ、大変!生きてるよね、お母さん!!大丈夫??」

慌ててかけより脈をとると、微かに波打っている。
「気絶してるんだ…」額に手をやると、熱があるようすは無い。ただ、かなりヒンヤリしているのがわかった。
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