storyB
□父親
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ベジータは苛立っていた。
夕食後の食器が大量に積み重なれた向こう側に見え隠れするのは、やっぱり同じように腕を組み、苛立っている彼の妻。
もう小一時間こうしているだろうか。
察しのよいトランクスはすでにこの場から立ち去っている。
もう子供は寝てもおかしくない時間になっているからだ。
目の前にはクシャクシャの紙。
手許のお茶はとうに冷え、濁った冷たい色を浮かべている。
恐らく大量の皿の向こうに、後片付けもせずにいる妻もそうなのだろう。
同じように腕を組み
同じように苛立つ二人は、やっぱり似たもの夫婦といえた。
この、一見「どうでもいい夫婦喧嘩」に至ったのは何故か?
それは、この日の午前中のこと。
……………
「トランクス〜教科書は揃えたかしら?」
「うん…えっと…大丈夫だよ!ママ」
小学校に上がって間もないトランクスは、やっとのことで宿題を終えて、教科書などを揃えていた。
もちろん、まだひとりでは上手くいかないので、ブルマが手を貸すのだ。
「どれどれ……?」
すでにランドセルの中に入った予定帳を引き出すと、念のためか、明日の予定をチェックした。
開いた途端、ブルマの顔色がサアーっと青くなった。
「さ、さんかんかい??う…うそ、知らないわよ?」
ポカンとした表情のトランクスを尻目にランドセルを漁ると、奥の方からクシャクシャになったプリント一枚。
『参観会のお知らせ』
「トランクス…これはなあに?」
「なにって、これはお手紙……」
目の前の母親の表情から、自らの危機を一瞬にして悟ったトランクスは、スーパー速度で謝りモードに入った!
「わああん!ママ!ごめんなさい!」
「あさってじゃないの!ママ行けないわよ!どうして大事なお手紙を出さないの?」
「だってぇ…ほんとに忘れてただけなんだよぅ…」
涙をポロポロ流して謝る息子に、あまり叱っても仕方ないと思ったブルマは、トランクスの目線まで下がると彼をギュッと抱き締めた。
「分かったわ…これからはちゃんと出してね」
「分かったよ、ママ…」
まだ幼いトランクスにとっても、大好きな母親が参観会に来られないのは辛いことなのだ。
「今度は行くから、絶対お手紙を忘れないでね…」
「うん……」
「一応、見てみようかしら…」
クシャクシャになったお手紙を確認すると、意外なことに、ブルマはにんまりと笑った。