短編集[小説]

□三代目の想い
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三代目雑賀孫市が、まだ雑賀衆の少女、サヤカだった頃。

本願寺顕如という僧兵集団の頭領に雇われた雑賀衆は、織田軍との戦のための準備を行っていた。

そこに同行したサヤカは少女だが、銃器の扱いが同年代の少年より上手かった。だから、訓練の末に今回の戦に赴くことになったのだ。

所謂、初陣である。

「サヤカ」

初陣の割には緊張も恐怖も見せない彼女に、二代目雑賀孫市が声をかける。

「とうとう初陣だな。無理はするなよ?」
「いえ、それではかてません」
「お前一人が無理しても、状況って変わんないもんだぞー?」
「こはぜん、ぜんはこっておしえのこと、ですか?」
「そうそう!銃器は一人じゃその威力は発揮できないんだからさ!」

ぽんぽん、と頭を撫でて彼は去って行った。

「………とうりょう」

サヤカは両手を頬に当て、紅潮してないか確かめた。

彼女は女だから、幼いから、と決めつけない二代目が大好きだった。それに気さくで優しくて、爽やかな見目も大好きだ。

「…………ひとりはみんな、みんなはひとり」

頭領の言葉だ。

周りと合わせるのはあまり得意ではないけれど、頑張ろう。



対織田軍当日。


まだ若い二代目は、まだ実戦経験は少ない方だ。

だが、その采配は歴戦の戦士でさえも喉を唸らさせてしまうくらい、見事な物であった。

「そーだな。じゃあ大内の旦那はここに隠れてくれ。そして、柳爺さんはあそこに罠の設置を………」
「とうりょう!」

指示を出している二代目の袖を、サヤカはくいくいと引っ張る。

「サヤカは………、わたしはどこにいればいいですか?」

うーん、と二代目は唸る。

相手は残虐非道で有名な織田軍だ。初陣の幼子を前線に置くことも、後方で支援を頼むことも気が引ける。

結論。

自分の近くに置こう。

「サヤカは、常に私の側にいてくれ」
「わかりました!」

役割を与えて貰えたのが嬉しいのか、彼女は満面の笑みをする。

二代目はそれを見て、悲しそうに目を細めた。

今が戦国の世でなければ、この少女は武器を持つことも、誰かの命を奪うこともなかったのだろう。

それが、当たり前だと思って欲しくない。

「………サヤカ、頼むぞ」

いつか戦国は終わりを迎える。その時まで、この子供は、雑賀衆は私が守ろう。
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