短編集[小説]
□だんごむし
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「………おい、小十郎」
得意の南蛮語を使うのも忘れ、奥州の独眼竜は青ざめた顔で信頼する部下を呼んだ。
「はい、政宗様」
夕餉を作っている途中だったのか、伊達軍軍師で副将の片倉小十郎は右手に切りかけの葱、左手に包丁を持ったまま駆けつけた。
普段の伊達政宗なら、気を使ってやっぱり何でもないと彼を帰すが、その時は違った。
怪訝そうな表情のまま、政宗は右手の書状を小十郎に突き出す。
「これ、お前ならどういうことだと思う?」
「……は?」
とうとう日本語が分からなくなったのか、この人。
小十郎のきょとんとした表情は、暗にそう告げていた。
「あ、日本語がわからない訳じゃないからな?とりあえず読んでみてくれ」
「はい、わかりました」
政宗から書状を受け取りつつ、彼はほっとした。
流石にそれはないか、と。
そして、小十郎は1枚だけの書状に目を落とした。
『まさむね殿へ
それがしでござる!真田幸村でござる!
佐助からのじょうほうなのですが、奥州では「だんごむし」を食べるしゅうかんがあると聞いたのでござる!
それがしもまさむね殿のようにくぅるになるために、「だんごむし」を食べれるようになりたいのでござる!!
なので、甲斐の「だんごむし」を送るでござる!
どんな調理ほうほうが良いか、教えてほしいのでござる!!!!
あっ、お館さまによばれた!!なんでござるかぁあ!!!!!!!!!!
えっ、今日のりょうりとうばv@jmmg☆
真申辛× 真田幸村』
最後の方は走り書きなのか、解読出来なかった。しかし、本題とは関係ないだろうと思われるので、小十郎は割愛した。
「んで、これが一緒に送られてきた」
政宗が小十郎に掌サイズの箱を渡す。
変哲もない、白い箱だ。何故かがさごそと音がするが。
「…………」
なんとなく中身の想像はついているが、一応開けてみる。
「……うわ」
中身は、予想通りだんごむしだった。しかも箱にぎゅうぎゅうに押し込められ、蠢き合っている。
「なんでこんなことになったか、心当たりあるか?ちなみに、オレにはない」
「………ないと言ったら嘘になりますね」
苦笑する小十郎の頭の中に、1ヶ月前の会話が蘇り始めた。