ハンター試験編

□9話:軍艦島
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2日目の早朝。


取り残された37人の受験者達。


ホテルは軍艦を改造されたものなので、甲板があり、その上で受験生達は途方にくれていた。


リリーは一晩中、レオリオから借りたYシャツ姿だったが、昨夜は熱帯夜だった為、洗濯で干して乾いた服に着替えていた。


お代と支払った宝は置き去りで、やはりこれは試験なのかと疑問が浮上する。


ポンズとポックルは、クラピカ達を呼んで無線機をいじった。


「それ、壊れてるの?」


尋ねるゴンに、ポックルは無線機をいじりながら話す。


「いや、無線機自体は壊れてない。でも何処とも連絡が取れない。これじゃあオレ達37人、まとめて遭難したも同然だよ」


ポックルの言葉に、部屋が静まり返る。


どうしよう…


こんな孤島で遭難だなんて。


このままだと皆、餓死しちゃうよ…


リリーは、内心不安でたまらなくなった。


「ん?……いまなんか、変な音しなかった?」


突然、ゴンが不思議そうな顔でキルアに尋ねる。


「いや、別に」


「そう…」


「こうしていても始まらん。ここは先ず手分けして手がかりになるものを探すってのはどうだ?」


ハンゾーが口を開き、クラピカは頷いた。


「賛成だ、そうしよう」


ハンゾーはポックルに話しかける。


「もう少し続けてみてくれないか?」


「あぁ、分かった」


リリー達は、手分けして手がかりになるものを探し始めた。


30分後。


リリーは、個室で机の引き出しや扉を開けて、必死に手がかりになるものを探していた。


『はぁ…何も見つからないなー…』


汚れていた指に気づかず、リリーは鼻を掻いた。


ガチャ


すると突然ドアが開き、後ろに振り向く。


ドアを開けたのは、クラピカだった。


リリーとクラピカは、互いに目が合い、見つめ合う。


リリーの脳裏で昨夜のことが、突然頭に浮かんだ。


至近距離でキスする寸前のふたり。


昨夜のことを鮮明に思い出し、リリーは首を振って、クラピカから目を逸らした。


どうしようっ!!


どんな顔すればいいの??


クラピカがリリーに近付いて、話しかけてきた。


「どうだ?何か見つかったか?」


『ううん、何も!』


「そうか」


『……………』


「……………」


二人の間に、沈黙が続く。


とても気まずい。


しかも、昨日の部屋よりも断然狭い空間でクラピカと二人きり。


ここは…もう思いきって、昨日のこと聞くべき?


どうしてわたしに、キスしようとしたのって。


めっちゃ気になるけど…


でも聞いてどうするの??


余計に気まずくなりそうだし。


でもこの沈黙に耐えられないっ。


なにか、話さないと…!!


でもなにを話せば…


考え込むリリーに、クラピカはふっと笑って沈黙を破った。


「…ひどい顔だな」


『え!?』


リリーは慌ててクラピカを見た。


リリーの鼻の先が、少し黒く汚れている。


クラピカはそっと手を伸ばして、彼女の鼻を親指で触った。


「…汚れてるぞ?」


ドキッ


リリーの心臓が、急に跳ね上がる。


『じっ、自分でやるからっ』


そう言って、リリーは自分の鼻をごしごし指で拭いた。


汚れは余り取れてないが、クラピカは窓の景色に視線を映した。


リリーは、ちらっとクラピカの横顔を見つめて、自分も窓の景色を見つめる。


『……………』


「……………」


再び、二人の間に沈黙が流れる。


うぅ…苦しいっ。


…ダメだ!


ここに居たら、心臓が持たない!!


『…わたしっ、他の所も探してくるね!』


そう告げて、慌てて部屋から出ようとドアに向かった。


ドアノブを握った、そのとき。


「…リリー」


名前を呼ばれて、リリーはゆっくりクラピカを見た。


「…………」


クラピカは何か物言いたげな表情を浮かべていたが、やがて静かに口を開いた。


「…いや、気を付けて探すんだぞ。また…」


『…うん。またねっ』


リリーは、迷わず部屋を出た。


自分の高鳴る鼓動の音を聞きながら、廊下を早歩きで進む。


だんだんと落ち着きを取り戻してきた頃、また昨夜のキス寸前の瞬間が、頭に浮かんだ。


リリーは徐々に足を止めて、もう一度昨夜のことを振り返る。


あのとき。


目を開けて、顔を上げたとき。


クラピカの透き通る瞳が、わたしを真っ直ぐに見つめていた。


時間がぴたりと止まった、あの瞬間。


わたしを見つめる彼の眼は、何も揺らぎがなくて、ソフィアという人ではなく、ちゃんとわたしを見てくれていた気がした。


自分の秘めた心の真実を明かそうとするとき。


人はためらってしまう。


その長いためらいはいつしか。


真実を明かす勇気さえ、奪ってしまう。


後ろの方から扉を閉める音がする。


リリーは、後ろに振り返った。


そして、さっき居た部屋へと慌てて走った。


伝えよう。


わたしの気持ちを…いま伝えたい。


クラピカのことが、大好きなんだってこと。


たとえ、昔の初恋の人が…忘れられなくても。


それでも…


リリーは、クラピカと居た部屋の前に辿り着き、ドアを開けた。


だが部屋には、クラピカの姿がない。


リリーは必死でクラピカの姿を探した。


でもいくら探しても、クラピカは見つからなかった――――――――…




















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