ハンター試験編

□15話:疑惑
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どんなに辛いことがあろうと一日は変わらず流れていく。


7日目となり第4次試験が終了し、リリー、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオの5人は無事に4次試験を合格した。


最終試験会場に到着までの間、飛行船の中でリリー達は部屋で輪になって休息をとっていた。


「次で最終試験か…せっかくここまで生き延びてきた仲間だ。みんな携帯持ってるか?これも何かの縁だ。番号交換しとかねーか?」


携帯電話を取り出したレオリオにキルアが頭に両手を組ながら答えた。


「えーリオレオと番号交換してもどーせ連絡しねーしなぁ」


「リオレオ…じゃねぇ。オレはレオリオだ!!」


吠えるように叫ぶレオリオを見てリリーは笑うと、携帯電話を取り出した。


『いいよ!みんなで交換しよ』


「あ!オレ、ケータイ持ってない」


ゴンが申し訳なさそうに話すとキルアが目を丸くした。


「お前合格したらケータイ買っとけよ。ハンターの必需品だぜ?」


「そうだぞ、ゴン」


キルアとクラピカに進められ、ゴンは頷いた。


「分かった!試験合格したらケータイ買っとくよ。みんな、番号メモに書いて教えて?」


ゴン以外の4人は携帯電話でそれぞれ番号交換し、メモに番号を書いてゴンに渡した。


クラピカはリリーの顔をまじまじと見つめた。


一瞬目があった二人だったが、リリーは直ぐに目をそらす。


リリーはクラピカとキルアの顔を極力見ずに、ゴンとレオリオとばかり会話をした。


空気がなんだか重たい。


次第に5人はそれぞれ各自で休憩し、リリーは一人廊下の窓から外の景色を眺めていた。


その姿を見つけたクラピカは、リリーの元に歩み寄る。


ずっと何かを思い悩んでる様子で、クラピカはリリーに声をかけられずにいた。


沈んだ顔をしたリリーは、動きが視界に入ったのか、クラピカの方へ首を向けた。


『……!』


リリーはクラピカの姿を認めると、はっとしたように息を呑んで、顔を歪ませた。


「…リリー。あの時、ヒソカに何を言われたんだ?」


単刀直入に切り込んだクラピカの質問に、リリーの見開かれた瞳がかすかに揺らめいた。


リリーは視線を泳がせて困ったように眉を寄せると、次第にクラピカから目を反らした。


『…何も言われてないよ』


力のない声でつづられたリリーの言葉に、クラピカは続けた。


「嘘をつくな。私には言えないことなのか?」


リリーは何かを堪えるように目を細めた。


『クラピカに関係ないから…』


そう、これでいいの。


クラピカに真実を伝えることなんて出来ない。


隠して通して、今まで通り仲良くなんて出来ない。


考えただけで胸が苦しくなる。


ずるいやり方かもしれないけど…


わたしのことなんて、嫌いになってしまえばいいの。


嫌いになって、離れていけばいい。


わたしのことなんて、忘れてしまえばいいの。


だから、もっと冷たくしなきゃ…。


そして、この際だから言ってしまおう。


あの時のことを、全部。


『…ゼビル島でクラピカを看病してた時、あなたは寝ぼけてまたわたしとソフィアを間違えたの。わたしに…キスまでしたのにクラピカは全く覚えてないんだね』


クラピカは耳を疑った。


私が、リリーをソフィアだと間違えたのか?


リリーに、キスをしただと…?


すると、あれは…


あの夢は、現実で、リリーと間違えていたのか。


クラピカは混乱しながらも、冷静さを装い、申し訳なさそうな顔でリリーを見つめた。


「…リリー。そうだとは知らず本当にすまなかった。私はあの時ソフィアの夢を見ていた。夢と現実の区別がつかず、リリーを勘違いしてしまったようだ…」


『本当に勘違いなの?』


その質問に、クラピカの瞳が一瞬だけ凍りつく。


「…何故だ?」


『寝ぼけてたわりには、随分としっかりしてたから』


「では私が、寝ぼけたふりをしていたとでも言うのか?」


『…クラピカしか分からないでしょ?』


クラピカは手のひらを強く握りしめた。


様々な感情をはらんで怒りに燃え上がる目が、リリーを睨み付ける。


「それはつまり、私がお前を誘惑したと?」


抑揚のない声音で問いかけられて、リリーはクラピカを疑う目付きで見つめて答えた。


『だから聞いてるの。誘惑したのかどうか…』


クラピカは剣呑な顔で眉を寄せた。


「リリー。前にも言ったが私は復讐の身だ。誘惑など断じてありえない。あれからお前は、私をそんな目で見ていたのか?」


『そんな目で見ていたも何も、クラピカがいつもわたしとソフィアを重ねてるからよ!クラピカといると辛い気分になるの。なのにクラピカは平然としてるんだね。…なに?また違う人に見える??……もう、わたしに話かけないで…』


リリーを見つめる見開かれたままのクラピカの瞼が、大きく震える。


リリーはクラピカから顔をそらし、辛さを堪えるように顔をゆがめた。


油断すると不意に涙腺が緩んでしまいそうになる。


ここで涙を流したら全てがバレてしまう。


リリーは必死に泣くのを我慢した。


「…お前がそう望むのなら、今後一切私からは話しかけない。試験にも支障が出ないようにする」


クラピカは冷たく言い放つと、リリーに背を向けて歩き出した。


…クラピカ、ごめんなさい。


クラピカは誘惑するような、そんな人じゃないって分かってるよ。


それなのに、わたしは嘘をついた。


クラピカを傷つけた。


わたし…最低だ。


でも、これでよかったんだよね…?


…クラピカ。


どんなことがあったって、今でも好きなの。


出会った頃と変わらず…


いや、あの頃よりもずっと。


気づいて。


気づいてよ…


今でもこんなに好きなんだよ。


本当は、嫌われたくない。


忘れてほしくない。


ずっと、一緒に居たいんだよ。


何度も、話しかけて欲しいんだよ…


どうしようもない矛盾にいびつな悲しみが増した。


クラピカの姿がだんだん遠くなっていく。


見えなくなるまでその姿を追っていたリリーは、声を押し殺し、息が詰まるほど泣き崩れた――――――…







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