ハンター試験編

□12話:忘れえぬ恋
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痺れ薬が塗られた針に刺されたクラピカは、全身が麻痺し気を失った。


リリーは、クラピカを人目がつかない近くの隠れた場所に自力で移動させた。


自分の太股を枕がわりにし、クラピカを看病する。


クラピカは瞼を震わせると、のろのろと目を開けた。


焦点のあっていない瞳が宙をさまよい、唇を震わせる。


やがてクラピカは、リリーの姿を認めると、顔を歪ませた。


「…………」


リリー、とクラピカの唇が動いている。


クラピカ…


分かってるよ。


聞こえてるよ。


わたしをかばったせいで


こんなに苦しめて…ごめんね。


わたしが居眠りをしたとき、厳しく怒ってくれたのは、心配してくれたからだよね。


わたしを守るために…影でずっと、見守っててくれたんだね。


出会ってから、クラピカには助けてもらってばかり…。


心配かけてばかりだ…。


本当に、ごめんなさい。


クラピカ…


自然と流れる涙を必死で拭いながら、リリーはずっとつきっきりでクラピカの看病をした。







そして、あれから3日後…


空はまだ薄暗く、青白い月光が射している。


ようやく朝日が顔を出し、段々と明るさに変化していく頃…


リリーは、ゆっくりと目を覚ました。


いつの間に寝ちゃったんだろう…


………あ、クラピカ…


ふとクラピカを見ると、リリーの隣で静かに寝息を立てて眠っていた。


痺れ薬の効果が薄れてきたのか、以前よりも通常の呼吸に近づき、震えも治まっていた。


リリーはクラピカの寝顔を見つめる。


すると、クラピカは瞼を震わせてゆっくり目を開けた。


何度か目をしばたたかせて、枕元にいる少女の顔を確認した。


「…………………ソフィア、なのか…?」


『え…??』


久しぶりに聞いたクラピカの声。


ずっと一緒にいたのに…


わたしとは違う人の名前を呼んでる。


『………目、覚めたんだね。大丈夫??』


意識を取り戻したことの喜びと同時に切なさも込み上げる。


リリーは聞こえなかった振りをして、まだ少し薬が効いているクラピカの体をゆっくり抱き起こす。


すると、クラピカはリリーの肩をがしっと掴んだ。


「ソフィア……本当に、ソフィアなのか!?」


真剣な眼差しを気圧されたのか、リリーはこくりと頷く。


眩しそうに目を細めて、クラピカは手を伸ばし、リリーをふいに抱き締めた。


その力は強く、温かさに溶けてしまいそうになる。







「何故…今ごろ現れるんだ。私はお前を、一度も忘れたことはなかった…」


クラピカは、リリーの顔を両手で包んで自分の顔に向けさせた。


真剣に見つめるクラピカに、 リリーは緊張で硬直したまま頬がうっすらと赤くなっていた。


「…何故知らないふりをした。私は…どれほどソフィアに生きてて欲しいと願ったか…どんなに、会いたかったか…」


クラピカはとても悲しそうな、悔しそうな、今にも泣き出しそうな顔で言った。


クラピカ…


わたしは、ソフィアじゃない。


リリーだよ??


そう、言いたいのに…


そんな顔されたら言えないよ。


体はいつの間にか小刻みに震えてしまっている。


それに気付いたクラピカは優しくリリーの頭を撫でる。


そして、クラピカは逸らすことなく真っ直ぐリリーの目を見つめると…


ゆっくりリリーの唇に自らの唇を這わせた。


一瞬、触れる程度の…軽く優しいキス。


触れた部分がまだほんのりと熱を持っている。


思わぬ事態に、リリーは目を見開いた。


だが、クラピカの体が均衡を崩して倒れこむ。


リリーは咄嗟に手を伸ばして、彼の体を受け止めた。


まだ完全に回復していなかったのか。


そのまま気を失ったクラピカをリリーはゆっくりと寝かせた。


生まれて初めてキスをした。


憧れだった、わたしの大好きな人と。


初めてがクラピカですごく嬉しくて…幸せだった。


でも、クラピカはわたしだと思っていない。


昔の初恋相手、ソフィア。


クラピカ…


そんなにソフィアのことが、今でも好きなの??


そんなに忘れられないの??


今となってクラピカの言っていた言葉が蘇る。


――「本当に盗賊で育ったのか?5年前のことは覚えていないのか?」――



――「…私と同じクルタ族の幼なじみだ。私が、初めて好きになった女性だ…」――



――『そんなに似てるの??』

「あぁ、錯覚だと思うほど」――



――「…キルア。お前は本気で愛した人を失った悲しみを知らない。だからそんな発言が出来るんだ」――






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