ハンター試験編

□7話:初恋の人
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リリーは、眩しい部屋の明かりで目が覚めた。


「気がついたか」


『…クラピカ』


眩しそうに目を細めたリリーは、ゆっくりと起き上がった。


クラピカの上着が、自分にかけられている。


ズキッ


首が痛い…


そう言えば、さっき闘技場で戦って…それで…


『クラピカ…試験は??』


重い体を支えながら、リリーはか細い声でクラピカに問いかける。


「安心しろ、3勝2敗で私達が勝った。だが、レオリオが負けた分50時間をこの部屋で過ごさなければならない。いまは残り30時間だ。それまでゆっくり休んでいろ」


それを聞いて安心したリリーは、小さく頷いた。


あれから20時間も経ったんだ。


ほぼ丸一日寝てたんだね。


みんな心配したよね…てあれ?


みんなぐっすり寝てる。


『もしかして、クラピカだけずっと起きててくれたの??』


「何度か仮眠はしたがな。目が覚めたとき、誰も起きていなかったら寂しいだろう?」


クラピカは視線を床に向けたまま、優しい口調で話した。


クラピカ…本当にごめんね。


私がクラピカの言うことを聞かなかったから、迷惑をかけた。


たくさん心配させちゃったね…。


自分勝手な私のために、ずっと起きててくれて…


『クラピカ…ありがとう』


リリーは、クラピカを見つめ嬉しそうに微笑んだ。


……みんな眠ってるし、クラピカと二人きりで話せるのは、今がチャンスだよね??


あのとき聞けなかったこと、いま聞いてみようかな。


『わたしね…』


「お前は…」


二人は同時に口を開き、偶然にも言葉が重なり合って消えた。


視線を交わす二人。


『あ…クラピカから言って』


「リリーこそ先に言え。私はたいしたことではない」


『…じゃあ、わたしから言うね。飛行船で聞けなかったソフィアって人の話だけど…やっぱり教えてほしいの。どんな人だったの?クラピカの恋人??』


クラピカの表情が変わったのを見て、リリーはごくりと唾を飲み込み、話を聞く体勢をとった。


「ソフィアは…」


クラピカは目を細める。


たくさんの情景が脳裏に浮かんで消える。


「…私と同じクルタ族の幼なじみだ。私が、初めて好きになった女性だ」


クラピカの、初恋の人…


やっぱり、そうだったんだ。


聞いても平気だと思っていたはずなのに、実際に聞くと胸の奥が痛い。


『ソフィアって人、私と似てるの?』


詳しいことは聞きたくないはずなのに、口が勝手に動いてしまう。


「あぁ、錯覚だと思うほどな」


『そんなに??でも中身は違うでしょ?』


「…全く違うな」


『そっかぁ』


姿勢を戻すリリー。


頭の中では、クラピカと出会ってからの映像が駆け巡っていた。


『…二次試験のとき、わたしを豚からかばったのも、ずっと起きててくれたのも、その人の為でしょ?』


クラピカの切なげな顔を見れば分かる。


わたしと重ねてソフィアを思い出してるんでしょ?


乾いた沈黙の中、クラピカは少し気まずそうに答えた。


「…今まで、リリーがソフィアだと思いたかったこと、何度かあった。…すまない」


申し訳なさそうに呟き、クラピカはリリーと目をそらす。


この話を聞いて、ショックじゃないと言えば嘘になる。


でもね。


いまは、ソフィアの代わりでもいいの。


いつかクラピカの中で越えてみせるから。


だから…大丈夫。


『もう間違えないでね。初めからやり直し!わたしはリリーです。よろしくね!』


リリーは笑顔で右手を差し出す。


それを見たクラピカは安心したように微笑むと、リリーの手を握った。


「私はクラピカだ。よろしく」


重なり合う温度。


二人はお互いに見つめあい、笑い合った。


『…あ、クラピカの話は??』


リリーは重なり合った言葉の続きを聞き返す。


クラピカの脳裏には、闘技場で緋色に変わったリリーの眼が浮かび上がる。


きっと見間違いだろう。


「…いや、対したことではない。忘れてくれ」


クラピカはその言葉を消し去るかのように答えた。


『そっか…わかった』


この時、キルアは眠った体勢のまま二人の話を黙って聞いていた―――…











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