ハンター試験編

□10話:嵐の脱出
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リリーとゴンは、大荒れた波の目の前にいた。


この海の底に、レオリオがいる。


だがこの大荒れた海に自分が飛び込めば、死は確実だということをリリーは感じた。


並大抵の人間では、とてもじゃないがこの海に飛び込むことは不可能だろう。


でもここは、泳ぎが得意なゴンを信じるしかなかった。


「リリー!オレがもし10分経っても戻らなかったら、クラピカに知らせてね!」


真面目な顔で告げるゴンの言葉に、リリーは一瞬何を言われたのか分からなかった。


その言葉は、10分経っても戻らなければ、オレ達を見捨てろという意味だ。


でも、迷っている暇はなかった。


一刻も早く、レオリオを助け出さなければ、彼が死んでしまう。


リリーは決して揺るがない瞳で、ゴンを見つめて言った。


『大丈夫!ふたりは絶対戻ってくる。ゴンを信じてるから!』


リリーの言葉に、ゴンは頷いて親指を立てた。


「うん!大丈夫!絶対レオリオを助けてくるよ!」


その言葉を最後に、ゴンは大荒れた海に飛び込んだ。


大丈夫。


ゴンとレオリオは、必ず戻ってくる。


絶対に。


リリーは、そう自分に言い聞かせた。


すると。


『きゃ…!』


一瞬、波がリリーに襲い掛かる。


全身濡れてしまったリリーだが、どうすればゴンを助けられるか、頭をフル回転させる。


波が更に大荒れて、船が浸水しようとしている。


ここにずっと止まれば、波にさらわれるのも時間の問題だった。


突然、海を照らすライトが消えてしまった。


ポックルとポンズはエンジンを起動し、動力を主砲へ切り替えたからだ。


完全な闇の中。


これでは、大波の中でゴンの姿が見つけられない。


リリーの心臓が早鐘を打つ。


海の中はもっと真っ暗だろう。


ゴンがレオリオを抱えて、海面まで上がってくるときに、せめて目印になる光でもあれば…


光…………懐中電灯…


そうだ!


こうしちゃいられないと、リリーは船に戻ろうとした。


すると、近くで16番のトンパが立っていた。


しかも手には、懐中電灯を持っている。


これだ!!


リリーは慌てて声をかけた。


『すみません!その懐中電灯、貸してくれませんか!?今すぐ必要なんです!!』


「それは無理だな」


『え…』


「これ(懐中電灯)はオレが持つ。君は波に気を付けながら、ゴン達が海から上がる時に引き上げてくれ」


トンパの思いがけない言葉に、リリーの瞳を光らせた。


『はい!ありがとうございます!!』


トンパはハシゴに登って、海に光を当てた。


「こんなんでもないよりはマシだろう。根競べなら自信あるぜ!」


そう言って、トンパは自信気に笑った。


ハンゾー達は砲弾を充填し、砲先を目標に合わせ、後は引き金を引くだけ。


30分まで、あと残り3分。





海の底では、気を失っていたレオリオが目を開けた。


目の前には、目を閉じて気を失っているゴンの姿にレオリオは彼を揺さぶった。


「ゴン!ゴン!」


ゴンは目を覚まさない。


レオリオは、ゴンの身体に乗っかっている板を蹴っ飛ばし、自分の潜水服の中にある空気を外してゴンの口につける。


ゴンが意識を取り戻すと、レオリオを見て、大きく目を見開いた。


「(レオリオ!)」


「あとは…頼んだ…ぜ…」


その言葉を最後に、再び気を失うレオリオ。


ゴンはレオリオを抱えながら、必死に海面に向かった。





「クラピカ!もう待てん!主砲発射だ!」


マイク越しからハンゾーの声が聞こえる。


クラピカは主砲の発射指示をするか、葛藤に苦しんでいた。


どうすればいい。


ゴンとレオリオを見捨てるのか?


もう二度と、仲間を失いたくない…


だがこのままでは、私だけでなく皆が…


リリーも…


すると。


「クラピカ!ゴンがレオリオを連れていま上がってくる!」


キルアが感じ取った言葉に、クラピカはそうか、と気を改め、発射の指示を出す。


「全館に通達!30秒後に主砲を発射する!ーーーー…」


海の中でゴンが船を探す。


すると小さな光を見つけたゴンは、その光を頼りに、急いで海面へ上がった。


そして。


1砲発射。


崩れる岩盤。途轍もない衝撃音。


軍艦船が激しく揺れた。


ひとまず安全な場所に避難していたリリーは、凄まじい衝撃音と爆風に、どくんと心臓が跳ねた。


す、すごい…


爆風がこんなところまで!


「トンパさん!!」


海の方からゴンの声がした。


海を見ると、トンパのライトに照らされたゴンとレオリオの姿を目にする。


リリーは大きく目を見開き、それは嬉しそうな笑みを浮かべた。


『ゴン!レオリオ!』


リリーは急いで海に近い救出できる場所に走った。


すると全館にクラピカの声が響き渡る。


「5・4・3・2・…撃て!!」


2砲、3砲と発射し、岩盤を完全に切り離し、スクリューを稼動しその力で抜け出した。


船がゆっくり動き始める。


『ゴン!!大丈夫!?』


「リリー!うん!大丈夫!」


リリー、トンパ、ゲレタが、今まさにゴンとレオリオの救出をしようとしていた。


気を失っているレオリオをまず引き上げる。


ゴンは船につかまっているが、まだ身体は海上にあった。


「動いてる!ねぇ!この船動いてるよ!」


喜ぶゴンに、トンパも笑顔で言った。


「あぁ、そりゃあ動くさ!なんたって船だからなぁ!」


「そうだよね!」


いつもの元気なゴンの姿に、リリーは心からほっとした。


レオリオも生きてる。


本当に、ふたりとも無事でよかった…


『ゴン!つかまって!』


そう言って、リリーは笑顔でゴンに手を差し伸べた。


「うん!!」


ゴンの手をしっかり握ったリリーは、引っ張ってゴンを船に引き上げた。


そのとき。


軍艦船が座標に乗り上げ、軍艦船に大きな衝撃が走る。


その衝撃でクラピカは転倒し気を失った。


リリー達に大きな波が襲い掛かる。


全身濡れたゲレタが、慌てて叫んだ。


「無事か!!」


「リリー!?リリーがいない!!」


ゴンが大声を出す。


「何ィ!?」


ゲレタが海を見ると、荒れた大波にリリーの姿はどこにも見当たらなかった。




その頃、ハンゾーがクラピカに必死でマイクに話しかけていた。


「船が竜巻との相乗効果で傾きがとまらない!このままでは転覆する。何かうつ手はないか!?クラピカ!返事をしてくれ!!」


ハンゾーが呼びかけるも、操舵室にはクラピカの姿しかなく、クラピカは気を失っている。


揺れる船体。


ふと良い方法を思いついたキルアが、ハンゾーに話しかける。


「ハンゾー!竜巻を打て!その反動で船を持ち直すんだ!竜巻の方向も変わるかもしんないし、一石二鳥」


キルアはピースをして笑った。


「よし、やってみる!!」


ハンゾーの指示で、主砲を打つ位置が竜巻の方向に移動した。



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