小説

□大人の対応
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午後の昼下がり、宿舎のリビングのソファーで読書をしながら貴重な休日を過ごす。
僕が現在、読むこの本は、シャロックホームズと助手のワトソンが、奇想天外なコンビネーションで事件を暴いていくミステリー小説で、ブリディッシュジョークとでも言うのか独特な口回しや、心臓を突き破る様な卓越したストーリー展開がとても気に入っていて、世間でも人気なシリーズ小説となっている。
その新巻がつい3日前に発売され、この休日で読破してやると決意していた。
その為には静かな空間が必要なわけで、メンバーを言葉巧みに誘導して、カイを除いては見事に外出させた。
カイだけは折角の休日でも、睡眠に1日の大半は時間を当てるだろうと考えて、特に何も言わなかった。
その目論みは成功して、メンバーがばたばた忙しく支度を整えて出掛けていく最中でも、カイは起きて来ず。僕が意気揚々に読書を始めても起きて来なかった。
時計の存在なんて忘れた頃、物語がクライマックスに突入したところで、ようやくカイが起きて来た。
急変していく展開にのめり込んでいた僕は、リビングの扉が開く音に飛び上がった。
そこには眠そうに眼を擦りながらも、驚いた様子のカイが立っていた。
「びっくりした、どうしたのギョンス?」
「あー、ちょっと本に夢中になり過ぎてドアの音に驚いちゃった」
カイが僕の手元の本を見て、納得した様な声をあげる。
お互いがお互いに驚いたらしい。
ドアを閉めてソファーまで歩いてくると、僕の隣に腰掛ける。
「その本新しいの出たんだ」
「そう、3日前にね。一気に読んじゃおうと思ったけど、残りは寝る前に読むよ。カイはずっと寝てたからお腹減ったでしょ?何か作ってあげるね」
本に栞を通し、テーブルに置いてソファーから立ち上がった途端にカイが僕の手首を掴んだ。
「いいよ、今そんなお腹空いてないし。それより小説あと少しで読み終わるんだろ?」
カイが本から垂れる紐をみて言う。
「そうだけど、カイが退屈でしょ?」
いくら小説が楽しみだったとはいえ、目覚めた恋人をほったらかしてまでは読めない。
「俺はギョンスが読み終わるまでまた寝るから、気にしないでいいよ。その代わりもっとそっち座って」
テーブルに置いた本を渡され、僕をソファーの奥へ押すので、言われた通り素直に従う。
「ここ?」
「もっと」
「ここでいい?」
少しソファーをずれると、更にずれるよう言われ、戸惑いつつも素直に言うこと聞く。
最後には4人掛けの大きなソファーなのに、肘掛けに体の左側が触れる端に座らされてしまった。
戸惑い隠せずちんまり隅に座っていると、カイが空いたソファーのスペースに寝転がり、僕の膝に頭を乗せてきた。
「ここで読み終わるの待ってるから」
満足顔でひと言うと、カイは早々に眼を閉じて眠りに入ってしまう。
カイのペースに巻き込まれ、僕の膝で寝息をたてるカイに呆然としてしまうが、僕が本を読めるよう気遣ってくれたのだと思い変える。
些か暴君的ではあったが、この際構わない。
「ありがとう、カイ」
膝の上の健やかな寝顔に胸が温かくなり、髪に隠れた額にキスをして、本を開いた。
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