小説

□未熟な僕たち 前編
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ライブへ向けたのダンスの練習。
30分の休憩が入ってみんなおもいおもい休息をとっている間、カイだけは鏡にむきあって真剣に動きの確認をしていた。
EXOのセンターを任され、事務所の中でもダンスが上手いと評される彼が少し前のライブを足の怪我で踊ることが出来なかったのが相当悔しかったのだろう。

みんなに置いてかれちゃう。
以前僕にだけぽそりと呟いや彼の言葉を思い出す。
カイのダンスに敵う奴なんてうちのメンバーにはまだいないと思う。
慰めでも世辞でもなく僕の本心を伝えれば、カイはちがう、ちがうと呟きながら僕の胸に顔を埋めてしがみつくとぽつりぽそりと告白した。用意された椅子に1人で座って客席へ駆けていく僕たちの背中を見るのが辛かった、僕たちの踊る足が羨ましかったと。

きっと休憩時間を削ってでも踊るのはあの時感じた疎外感と羨望感を埋めようとしているのだろう。
それでも久しぶりに見たカイのダンスはやはり美しかった。
まるで白鳥の羽ばたきのようななめらかさと、鷹の爪のような鋭さをもった動きは美麗で超然としていた。

休憩時間が半分過ぎたころカイはようやく踊るのを止めると満足そうに喉をならして水を飲んでいた。

そんな日が数日続いた。
毎度、休憩時間を半分返上して夢中に踊るカイをスホヒョンは心配していたけれど、全く休憩しないわけでもないうえに、気炎に満ちた目で踊る彼を見ると誰も何も言えなかった。

次のライブまであと3日を残した日だった。
その日も休憩時間になっても踊るのを止めないカイを尻目に僕は汗をかいて不快な感覚を顔を洗ってすっきりさせようと練習室を出てトイレへ向かった。
節水の為に3秒もしないで水が止まってしまう自動水道とセンサーの反応が鈍い手洗い場所の為で、差し出す手と水の出るタイミングが合わず顔を洗うのに随分時間がかかってしまった。
首にかけていたタオルで顔を拭うと乱れた髪を簡単に手ですいて整えるとトイレを後にした。
廊下を歩いてると手洗い場の床に落ちた水が靴についたらしく歩くたびにきゅきゅとゴムがなる。
練習室に近ずくにつれてみんなのいつもと違う騒がしい声が聞こえた。嫌な予感がした。スホヒョンの緊迫した声で「カイ」と叫ぶ声が聞こえた瞬間に僕は練習室までの残りわずかな距離を走ると乱暴にドアを開けた。
そこには床に横たわり苦悶に顔を歪め左足首をおさえるカイの姿があった。
カイとその傍らで片膝をついて座り、取り乱したスホヒョンを囲んで他のメンバーも深刻な顔で立っていた。
僕の入ってきたドアの音に気付いたチェンとベッキョンが振り向いた。
「なにがあったの?」
僕は静かに歩み寄ると振り向いた2人に尋ねた。
なにが起こったのかなんて分かりきっているけれど、聞かずにはいられなかった。
「わかんない、俺携帯見てたから。でもドタンって音がしてスホヒョンの叫ぶ声が聞こえたらもうあんな状況だった」
「多分、また足首を捻ったんだと思う」
ベッキョンが戸惑った様子答えたあと、チェンが気まずそうに言った。
きっとチェンの中では3日後に迫るライブの事が頭をよぎったのだろう。
確かにライブも心配だがそれよりも僕はカイだ。
僕は頭半分にベッキョンとチェンの返事を聞き流すとカイをみた。
油汗をかいて苦しそうに呻いている僕のかわいい弟。
頭の中で冷静になれと繰り返す。
今カイにすべき事を一つずつ考える。
「…ベッキョナ悪いけど1階の自動販売機で冷たい水を5、6本買ってきてくれる?僕の財布もっていっていいから。チェン、僕がカイをどうにかするからチェンはスホヒョンを落ち着かせてくれる?」
僕はカイから視線を外さずに2人に言い放った。
唖然としていた2人はすぐにハッと目覚めたように「わかった」と短く返事をすると、ベッキョンは素早く練習室を出ていった。
僕とチェンはカイに歩み寄る。
僕はスホヒョンとは反対側のカイの正面に腰を落し、チェンがスホヒョンをカイから離すのを確認するとカイに顔を近ずけて言った。
「僕がいるから大丈夫だよ、カイ」
苦しそうに閉じた瞳をうっすら開いて僕を見るカイに優しく微笑む。心臓はうるさい位なのに頭は滝に打たれたように冷静だった。
まだ唖然としているメンバーに残りの指示を出す。
「チャニョリ、カイに水分とらせたいからこっちにきて身体起こして支えてちょうだい。セフナは椅子を3つ用意して。ウミニヒョンはマネヒョンに連絡して貰えますか?その時に氷と袋を買ってきてもらうように伝えて下さい。レイヒョンは僕の鞄に予備のタオルが入ってるのでそれを濡らしてきて下さい」
今度はメンバー1人1人の目を見て指示をお願いすると、みんな直ぐに動いてくれた。
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