二次創作『銀魂』長編

□異名狩―漆―
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 山崎はそういい終えると俯いた。山崎の視線の先にある彼の拳、小刻みに震えている。律儀に正座したその姿はいつも以上に小さく見えた。


「山崎が話さないんだったら、俺もトンズラしようかと思ってたんですけどねェ。どうも無理みたいなんで俺も話まさァ。」


 山崎の様子を見ていた沖田は、正面に顔を向け直した。出来るだけ誰にも顔をあわせないようにして、淡々としゃべり出す。


「話の流れで分かってるかと思いやすが、俺も攘夷戦争で出てた事があって、あの男から狙われてる異名持ちなんでさァ。まぁ、俺が戦争に出てたのは近藤さんの同上に頻繁に顔を出すようになる前の僅かな期間だけですけどねィ。俺の異名は『鬼姫』。でも此れは俺だけの名じゃなくて、俺と姉上が二人で『鬼姫』って呼ばれてたんでさァ。最初に戦場に出てたのは姉上で、武器として刀じゃなくて仕込み扇を使ってたもんで、敵を切る姿が舞姫のようだと言うんでついた名なんですぜ。姉上も、思想とか、天人とかそういうのは関係なかったんです。ただ、俺ら姉弟はこんな風に髪の色も瞳の色も人と違うから村八分にされてやして、仕事につかして貰えないもんだから金は手にはいらねえし、俺も姉上も病弱体質で、どうしても薬代に金がいるしで困ってたんです。それで、姉上は戦場の後方支援がいい金になるって聞いて、攘夷戦争に参加したんでさァ。当時姉上はまだ重い病気にはかかってなくて、俺の方が体が弱いくらいだったってのもあって、姉上はその事を長らく俺に黙ってやした。でも、ある時ちょっとした事がきっかけで俺はそれを知ったんでさァ。俺は怪我を作って帰ってくる姉上をどうしても護りたくて、戦場に出ることを決意しやした。姉上も武家の女ですし、かなり強かったからねィ、その頃には姉上の強さを聞きつけて、姉上には後方支援以外の仕事も回るようになってたんでさ。それに丁度時を同じくして、姉上が体調を崩しやして・・・戦場に出るときは、姉上と同じ女物の羽織袴で、得物も同じ仕込み扇を使いやした。俺らはかなり似た姉弟でしたし、もともとどんだけ頼りにされても人間だと思われてない節があったんで、戦場の奴らは皆、姉上が妖術で縮んだと思ったみたいで。やっぱりアレは人間じゃなくて鬼だったんだって事で、戦場に舞う舞姫でありながら鬼でもあるっつう『鬼姫』っていう異名になったんでさ。俺らも戦争が終わったらっていうか、戦場に出ても金が入らなくなったあたりから、次第に戦争に出なくなりやして、俺も近藤さんと出会って、姉上も、もう戦場にいけるような体じゃなくたって『鬼姫』は引退したんです。後は山崎と殆ど同じでさァ。一応攘夷浪士を取り締まる役職についてやすからねェ。言い出すに言い出せず、軽い気持ちで不審者を追ってたらいきなり自分の昔の名を聞く事になって、正直ちょっとパニクってたんでさァ。」
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