水中の廃人

□船上で音を奏でて
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「メローネ、髪にゴミが……」
名無しさんはふと見つけたゴミに手を伸ばす。
その瞬間、メローネは一瞬にして、怯えた顔に変わり、明らかな恐怖と苦しみを持った顔に変わった。
そして、名無しさんから一歩二歩と離れると、まるで来るなと言うように拒絶した。

「あぁ、ごめんなさい。驚いた?」
「いや、ごめん。俺さ女性が苦手でさ。ゴミグラツィエ」
「苦手なのね。ごめんなさい、以後気をつけます」
名無しさんは、そそくさとメローネから離れると、プロシュートとイルーゾォの方へ向かう。
「嫌われた……かも」
メローネは、一人しんみり呟くと三人の方へ歩き出した。

先ほどとは、違った音の客船が出発するという合図のベルが鳴り響いた。
広い船内に大音量のベルが鳴り響き、反響する。鏡の反射のように反響していたベルが鳴り止むと、名無しさん達の頭上の船内のテラスから暗殺対象が顔を出す。
四人は、対象が出てきたと分かるとそちらの方に目を向けた。

「ようこそ皆さん。私の主催したクルージングに来てくださりありがたい限りです。
さて、では皆さん。この五日間の豪華客船での旅をゆっくりとお楽しみ下さい。

あと、余談ですがこの豪華客船、アサシーノが乗っている……という噂がありますよ。

なんて、冗談です」
いかにも裕福そうな者が挨拶を済ませ再び、奥へ姿を消した。
この裕福そうな者の挨拶を聞いた四人は、顔には出さなかったが、内心はとてつもなく焦っていた。
それもそのはずで、彼は最後にまったくその通りのことを、冗談という建前で、告知したからだ。

潜入の暗殺には、相手に前々から情報が漏れるのどということは、日常茶飯事であったが、それを全くの他人の前で堂々と告知されたことは、前代未聞なのだ。
それ故、四人は少し驚いた様子で その場を退場した。
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