短編集

□左右不対象
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「俺は、アシンメトリーだろ?
つまり、左右不対象ってことだ。バランスが悪いと結構怪しい目で見られるもんだ。
でも、俺はこれを好んで自らしている。つまりは、好んでやってることは、どんな目で見られようと、どんなことを言われようとどうでもいい。」

名無しさんは、どういうこと、と静かに呟いた。
メローネは、垂れ下がってる方の前髪を静かに耳にかけつつ、口を開く。
そして、にぃっと口角を上げて言葉を発した。

「俺は、ここに留まることにした。
そうすりゃいつかは、未練は晴れるだろう?」
「・・・・そうね。」
名無しさんは、唖然と口を開いた。
まさしく空いた口が塞がらないもので、そのままぼけーっとメローネを見つめる。
そのまっすぐな瞳と、すっと長い睫毛が光っている。名無しさんは、メローネが幽霊なのにも関わらず、思わず見惚れた。

そして、メローネは静かに俯いて、その場にしゃがみこんだ。
それから、先程マスクを外したように手袋を乱暴に外すと、その場に擦り付けるように置いた。
名無しさんは、気がついていた。
メローネが先程から明るい笑顔で、自分の気を落とさないようにしていることを、そして今にも眉間にしわを寄せて泣きそうな顔に歪んでいることを。

「俺は、本当になんにもできなかった。
俺は、役立たずだった。」
「でも、貴方はきっと重要な役割を果たしたんじゃあないの?」
「そんなことはない。
みんなに迷惑をかけて、おまけに何も残すことができなかった。」

名無しさんは、どうしてこんなにも運命は残酷なのかは、知らない。
知りたくもないだろう。

「だからこそ、俺はここに残る。
せめてもの罪滅ぼしだよ、手伝ってくれよ?」
「えぇ、勿論。」
名無しさんがこんなに前向きな幽霊は、初めて見たという。
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