短編集

□悲しくて、辛くて
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「それは、当たり前だ。俺の世界だからな。ようこそ、鏡の世界へ。」
「どういうこと、なの?イルーゾォのせいなの?私は一体。」
俺は、心がズキズキと痛んで、自分がしたことを後悔した。
だが、もう取り返しがつかなくて、彼女になにも言えずに、目の前で、愛おしい人がボロボロと涙を零している。
その涙さえも愛おしくて、綺麗で、美しくて。

俺は、ほら。と彼女の玄関を開けると、彼女は俺にしがみついて、出してくれと悲願する。
そんなことを言われると、もともと、性格がひねくれている俺は、もっと彼女を独占したいと思ってしまう。
そんな俺を醜く、汚物のように自分自身で感じる。そんな俺が彼女と釣り合う訳がない。
それは分かっていても、彼女を好きなにってしまった定めなのだろう。

「好きだよ。名無しさん」
俺は、そう言うと鏡を出た。

それからというものの俺は、一日も欠かさず彼女を見続ける。
俺の独占欲が満たされる頃には、彼女は、どうなってしまっているのだろう。
今日も彼女を見ていると、彼女がひとつ呟いた。俺は、その言葉を聞くと目からボロボロと涙を零して、全く前が見えなくなった。
そして、再びしてしまったことを後悔する。

でも、もう遅い。
ここまできて、彼女を鏡から出せば、きっと彼女は、俺を軽蔑して、蔑み、哀れな目でじっと、見つめてくるのだろう。
そんなことを考えてしまう自分自身をとても不甲斐なく思う。

俺は、何より彼女の泣き顔が嫌だ。自分では、そう思っていた。
だけど、そう思っていただけで、本当に何よりも嫌なのは、彼女を悲しませる事よりも、彼女に蔑まれ、軽蔑されることが嫌なのだろう。
つまりは、彼女に嫌われたくないのだ。
彼女に嫌われないために、独占欲を剥き出しにして、自ら嫌われるようなことを進んで、してしまっていたのかもしれない。

「お願いだから、頼むから、俺を嫌いにだけはならないでくれ。罵ってくれても構わないから、嫌いにだけはならないでくれ。」
俺は、声が届かない鏡に向かって、ぼやき続ける。

そして、彼女の発したさっきの言葉が脳裏を再びよぎるのだ。
「本当は、イルーゾォが好きなのに、こんなことされたら、言えないよ。」

俺は、再び静かに後悔する。
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