短編集
□悲しくて、辛くて
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彼女は、よっぽどに人を気遣う性格で、人のことをちゃんと見る人なのだろうと思った。
カフェでの食事も終わり、帰り際にまた会おうと約束をして、メールアドレスまで、交換してしまった。
いま思えば、それ自体が既に過ちだったのだろう。
その三日後程にまた会う約束を取り付けた。
もうここまでくれば、デートなんだろうと思った。だが、それはただの友達の関係なのだろう。
彼女を好きになっていた俺には、酷なことで、悲しいくらいのことだった。
その日も、楽しい時間は一瞬に過ぎて行って、虚しさと苦しさに包まれたこの気持ちが体までをも蝕んでいきそうな。
そして、その帰り道ひとつの鏡が目に入った。
あぁ、俺はしてはいけないことを考えていると本能的に感じ取った。
でも、時はすでに遅しで、俺はその鏡に手を伸ばしていたのだった。
「じゃあこの辺りで、大丈夫だよ。またね、イルーゾォ。」
「あぁ。」
彼女が行ってしまう。だけど、自分の手はなにも動かなかった。
してはいけないことだと頭では、分かっていたのにも関わらずに、俺は、禁忌を犯してしまうのだろうか。
たくさんの心の渦巻きが、もどかしさとともに、周り続けて、止まらない。
彼女が俺のしたことに気づいたら、どんな顔をするのだろうか。絶望か、消失したような顔だろうか。
どんな顔であろうが、俺は彼女の泣き顔は見たくない。だけど、そうしてしまいそうだ。
俺は、自分のしたことが許せずに、そのまま少し立ち尽くしていた。
少し立ち尽くして、彼女の後を付けて行く。
彼女は既に、家に着いていてなにやらぶつぶつと言っている。
「今日は、変だなぁ。家に帰るのも迷うし。家も空かないし。どうしよう。」
俺は、ひとつ深呼吸をして、覚悟を決めた。