短編集

□言うなり
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「結構奥まってるなぁ。」
名無しさんは、路地裏で迷子になったようで、道がつかめなくあった。
それでも、歩く速度は変わらず、迷子ということよりも、早く帰りたいという方が強かったからだろう。名無しさんは、ふぅと溜め息をついた。
彼女の歩く足音だけが聞こえる中狭い両端の壁に音が当たって、反響する。一見すれば、不気味なのだが、それでも尚、彼女の歩調は変わらない。

「名無しさんさん!」
「え?」
ふいに名無しさんの後ろから、声が聞こえる。彼女は、バッと後ろを振り向くと、グラハムとつぶやいた。
そう、グラハムが彼女を心配して、後からついてきたのだった。
「グラハムさん?」
「無事か?」
「えぇ、というよりも、私は、家に帰るだけで、」
名無しさんは、言葉に詰まった。
実際帰ろうとしたが、迷子になっていたことを思い出したのだ。名無しさんは、はぐらかすようにうーんと頭をひねった。
「迷子か?」
次に言葉を発したのは、グラハムだった。名無しさんがうんうんと悩んでいるのを見て、放っておけなくなるのも、彼がお人好しだからであろう。
それでもまだ悩んでいる名無しさんを見兼ねて、グラハムは言う。
「家を教えてくれ。送る。」
「いいんですか?」
名無しさんの顔がぱぁっと晴れたのをみて、グラハムは胸を撫で下ろした。

「構わない。ほら行こうか。」

【運命は、再び二人を引き合わせる。】
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