短編集

□言うなり
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次の日の朝、いつもよりかなり早く起きてしまった名無しさんは、身支度を済ませて、朝食をとっている。
トーストにスクランブルエッグという簡素なものであったが名無しさんは、これがお気に入りのようで、黙々と食べ進めて行く。
名無しさんは、料理はさほど得意ではないが、それ以上に意外と人怖じするため、あまり外食はしないたちだった。そのため、昨日の出来事も名無しさんにとっては、夢だったのかもしれない。
何故ならば、彼女が初対面の人とこんなにも打ち解けることは、なかったし、できなかったからである。ましてや、名前をあっさり教えるなど、論外であった。

名無しさんは、グラハムの顔が忘れられなかった。それもそうで、見た目からすると、結構若く世間一般では、男前の部類に入るような彼が戦争に行き、おまけにあのような酷い火傷のあとがあったからだ。
名無しさんは、戦争とは本当に恐ろしいものだと実感したのだった。

朝食を食べ終えた頃だった。名無しさんは、ふと思ったのだ。もしかすると、昨日のところに行けば、もう一度グラハムに会えるのでは?と。
名無しさんは、グラハムに好意を抱いていたわけではないが、興味があった。
彼の顔に酷く醜い火傷のあとを残すような戦争とは、どのようなものなのか、知りたかったのだ。
そして、それを体験した気持ちや、その時戦争に出たことを後悔したのかを。

名無しさんは、すぐに出て行く用意をした。もうすぐで、昨日の時間になってしまうと。
用意が終わった頃には、既に十分前ほどになっており、名無しさんは、初めて家が大通りの近くでよかったと思ったのだった。

【それでも、二人を繋ぐのに充分すぎる理由だった。】
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