短編集

□もがく
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暇だ。
今日は、特に予約の客もいなく、だからと言って、大量に急の客がいるわけでもない。とても、静かで従業員の兎の駆ける足音や、桃の香りが漂ってくる。
一週間ぶん程の予約の薬や漢方は、もうすでに出来上がっていて、ストックを作る気も起きない。だからといって、素材のストックの切れたものも無い。本気に暇だ。
僕は、白衣を脱ぐと、漢服になり、椅子に腰掛けて、昼寝の体制に入る。昼間の暖かい日差しに体を委ねて、今すぐに、寝てしまいそうだった。
そこにふと、ドアの開く音がする。パッと起き上がり目を擦りつつ、視界を良好にした。まだまだぼやけてはいたが、だんだんと輪郭がはっきり形成されてくる。
「すいません。起こしました?」
「いやいや、大丈夫だよ。」
正直、目を疑うような美しさを放つ女の子が佇んでいた。

「なんの用かな。」
「あぁ、ええと。最近不眠症で。」
「わかった。じゃあ、その辺に座っておいて」
「はい。」
僕は、その美しさを直視できずにいて、さっさと愛想なく漢方を探しに行く。彼女は、申し訳なさそうに端の方に腰掛けた。そんなことないのに。
「お待たせ。」
僕は、戸惑いを隠しつつ、いつものちゃらんぽらんな感じで、彼女に接しにいく。
「君、可愛いけど、妖怪かなにか?」
「私、九尾の狐です。」
僕は、その一言で美しさに納得した。九尾の狐は、狐の中のトップなのだから。美しいのも無理はない。
「へぇ、狐の中のトップなんだ。」
「いえ、白澤様にはかないません。」
僕は、自分を知ってくれてたことにすごく嬉しくなった。
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