お題からの夢小説

□恋する動詞111題【上】
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2.追いかける
(左右不対象の続きみたいなものです)

俺は、この世に留まることを決めた。それは俺の一世一代の決意でもあったんだ。
そして、俺は幽霊なのに貴方が好きになった。いや、好きなにってしまったんだ。

俺は、何時ものように貴方にしか見えない体で貴方の後について行く、時折呆れたように漏らすため息を聞きながら、何時ものように笑って誤魔化して、過ごす。

俺がこの世から引き離されて、数年と経った。
その間に人々はだいぶと進化し、同時に退化した。そう俺は感じている。
交通手段や通信手段、色々な物が進化していくけど、段々と人間味が薄れていっている。
そのうちに人間は、愛も何もかも忘れてしまうのではないかとすらも思うわけだ。
と、俺は貴方に得意げに語る。

「うん。まぁそうだね。
少し便利になり過ぎてるかなとは、たまに思うけど」
「だろう?そう思うだろう」
「ところで、メローネはいつになったらあの世とやらに行くの?」
「行かないよ、ずっと貴方のところにいる」

そう俺が言うと、貴方は心底呆れた顔を浮かべて、大きくため息をつく、そして手元にあった珈琲を手に取りカップに口付ける。
その様子を見ていると、幽霊というものは、飲食、睡眠等一切しなくていいのだから、便利なものだと思う。
ただ、貴方と食事できないのは、少し寂しいものがあったりする。

俺は後ろにあった椅子に腰掛けて、貴方を見つめる。
貴方は俺が見つめているのに気がつくとふっと微笑む。
「さて、出かけようかな」
「あっ、俺も行く」
「はいはい」

貴方は最近俺に慣れたのか、性格が変わってきた。
最初に出会った時は、聖母のような透き通るような雰囲気を兼ね備えていたのに、今となれば、すこし冷たくなった気がする。
そんな貴方が好きなんだけど、好きになった弱みかと思う。

「いい天気」
「本当に、ところで貴方は彼氏作らないの?」
「まっさか、私には手のかかる幽霊がいるからね」
「ん、脈あり?」
「んなわけない」
そんなことを言う貴方だけど、俺が着いていけるように歩くあたり優しいと思う。
貴方は俺の前で、一つ大きく伸びをすると、初めて会った時のような微笑みを見せる。
その笑顔が俺をどんどん引き込んでゆく。

俺は幽霊で、貴方は生身の人間だから、触れ合えないし恋もできない。
だから俺は貴方の後をずっと追いかけるだけ。
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