お題からの夢小説

□恋する動詞111題【上】
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1.焦がれる

誰もいない部屋で、俺は静かに大きなため息をついた。
ため息をついた途端に、俺の飲んでいる紅茶が吐息で哀しげに揺れる。
透明なワインのガラスのように透き通る紅茶がやけに腹立たしくなり、一気に喉に通す。すると焦りすぎたのかむせてしまった。

その時、急に俺の背中に手の平がゆっくりと這うような感覚に襲われる。
俺は、反射的に肩を小さく震わせて、後ろを振り返る。と、後ろから透き通った声が聞こえた。

「大丈夫?」
「ん?あぁ、大丈夫だよ貴方」
俺は、何時もより目を薄っすらとさせて、突如現れた貴方の顔を見る。
今にもなぞりたくなるような髪、絡めたくなるような指先、そして、口付けしたくなるような唇、全てが愛おしく思えてならなかった。
俺の背中を撫ぜるその手の平ですら、俺の心の臓が動きを早めているというのに、貴方は全く気づいていない。

そして、俺も俺で意気地なしだから告白なんてできるわけもない。
寧ろ俺は、今の関係を望んでいるのかもしれない。分からなかった。
俺は、今は一方通行で苦し紛れに想い続ける他ない。貴方は、自らの動作一つ一つが俺をもっと酔わせるとは知らずに、今だ背中を撫ぜている。

「どうしたのイルーゾォ?黙っちゃって」
「いや、なんでもない」
「変なの」

そうやって、暖かく笑う笑顔ですらも俺を酔わせる。
貴方が口を開くだけで、俺は唇に釘付けになって、貴方が手を動かすだけで、俺は手に釘付けになる。

その手を取って、手の甲に口付けを落として、そのまま抱き締めたい。
貴方の息が苦しくなるまでずっと。

でも、俺は知ってしまった。
貴方が違う男を見ていることを、実を言うとだいぶ前から知っていた。
誰かは知らない。
もしかすると輩かもしれないし、全くの他人かもしれない。
女の子は、恋をすると変わるというから俺は、気がついた。

最初は、自分かもしれないなんて、浮かれていて、いかにも馬鹿げたことを思っていた。
自分なんて、貴方が好きになる可能性がある何億分の一に過ぎないのだ。
そう考えると、相思相愛っていうのは、本当に凄いものなんだと感じる。

俺が貴方を好きだということは、貴方は知らない。
だけど、貴方に好きな人がいることを俺は知っている。
だから俺は貴方に焦がれるだけなんだ。
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