短編集

□低温と他殺願望
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「クソッ、今日は二回仕事かよ……ったく、しかもターゲットを殺るタイミングは、夜中しかないだと……ふざけんなってーの」

ギアッチョは、ストリートの裏通りで、一人転がった缶を蹴り上げた。缶は、打ち上げられ壁で跳ね返り、そのまま落下した。
ギアッチョには、午前に任務があった。だが、組織の都合上午後にも任務が入ったのだ。おまけに四人家族の三人を暗殺する仕事であった。
えげつない、その言葉が似合いすぎるのかもしれないが、暗殺チームという下の方のものがとやかく訴えたところで、どうということはない。この任務の場合、残りの一人を暗殺しても、大変なことになりかねない。暗殺チームとは、暗殺者ではあるが、テロリストや無差別殺人者ではない。あくまで、仕事なのだ。

ギアッチョは、呆れたようにため息を吐くと、スタンドを身に纏った。そして、時間通り、予定通りにターゲットの家に氷を張り込ませた。
そして、暗殺にふさわしく音も出さず三人を確実に仕留めてしまった。ギアッチョは、すっとスタンドを解いた。
その時、ギアッチョの後ろからねぇと声がした。ギアッチョは、やばいと思ったが、平常心を保ちつつ、振り返り、口を開いた。
後ろには、一人の少女が立っていた。

「すまないな、すこし迷ってしまってな」
「誤魔化さなくていい」
ギアッチョは、その言葉に驚いた。まさか、自分が暗殺を失敗したのかと思ったからだ。

「貴方は、私の天使様でしょ」
「あ?」
「貴方は、人を殺めた。私の家族も……だから、私も殺めてくれるのでしょう?」
「…………悪いが、それはできねぇ、それに俺は、天使様なんかじゃあねぇよ。どっちかってーと……悪魔だ」

ギアッチョは、はっきりと言った。
内心では、少し目の前の人物の言動に驚きを隠せなかったが、それを表に出しては、終わりだったからだ。
本当は、見られたからには、殺るのが常識だが、今回の場合殺すなとの命令だったから、殺すわけにはいかなかった。だが、ギアッチョはためらった。本当に生かしておくべきなのかと、殺すべきではないのかと、しかし次の相手の言葉にギアッチョは、動揺した。

「早く殺して、貴方は天使様なの。私も殺める役目があるの!」
「悪いが、お前は今殺せない。その時じゃあないんだ。そんなこた死神に頼め」
「……この間、この通りを歩いてた人を殺めた黒装束の死神様にも頼んだ。でも、答えは同じだった」
ギアッチョは、黒装束という単語から、リゾットだと判断した。だとすれば、彼女が殺されなかったのも納得がいく。組織の命令なのだ。

いつの間にか、ギアッチョの目の前に居た少女は、ギアッチョの背後に回り込んでおり、彼の背に抱きついていた。その手は、力が込められていて、ちょっとやそっとじゃ離れないほどだった。
その口からは、殺してとか細い声が微かに聞こえている。ギアッチョは、それを知ってか知らずか、無視して少女の家の敷地を出ようとした。
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