短編集

□喋れるわけないだろう。
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「皆さん。日本語を勉強しませんか?」
「はぁ?」

そう、楽しそうだったからだ。私は、そう思って言ったのだ。

私の出身国は、日本で十五歳まで日本に居た。つまり、日本語は流暢に話せるし、十五歳以降は、イタリアで暮らしている訳だからイタリア語もバッチリな訳だ。
そのことをいいことに、暗殺チームのみんなも日本語が話せたらなと思い立った訳なのだ。

「急だな。名無しさんよぉ、日本語を話せて何がいいんだ?」
「ホルマジオ兄さん。そんなこと言わず……楽しそうじゃあないですか」
「兄さんって……しょーがねーなぁ……」
「ベネ!」

私の前のホルマジオは、やれやれというようなポーズをした。
ここに丁度十人全員が揃っているのだ。こんなチャンスは、滅多にない。これを逃したら次は、無い。
私は、暗殺チームのリーダー、リゾットの前に立って、お願いするように言った。

「いいでしょう?リーダー」
「……まぁ、いつかは役に立つ時が来るかもな、いいだろう」
「やった!」

だが、問題は九人の飲み込みが良いか、悪いかが微妙なところだった。
メローネやイルーゾォ、ギアッチョは、元々比較的頭が良いから問題は、無いだろう。リーダーやホルマジオ、ジェラートもそこそこの頭があるため、少しくらいなら大丈夫。プロシュートも少し譲って大丈夫。問題は、ペッシとソルベだ。
特にソルベ、見かけによらずかなり飲み込みが悪い。英語すらも少し危うい傾向にあった。

「さぁ!皆さん。始めますよ、日本語講座」

私は、何故か無性にテンションが上がり、思わず声のボリュームを上げてしまう。久しぶりの母国語とみんなの反応への期待のせいだろう。
やる気のない顔をしているものも居たが、最初に上げたメローネやイルーゾォ、ギアッチョは、少し楽しみそうだった。
元々、勉強が好きなのだろうか、羨ましい。

そして、日本語はイタリア人にとって何が困難か、それは巻き舌を引っ込めるということだ。
イタリア語は、Rの発音は大体巻き舌で発音するため、日本語のら行が最も困難とされる。
ら行だけではなく、平たく発音するのが恐らく難しい。

「名無しさん、俺少しなら日本語話せるぜ?」
「あぁ俺も」
「おお、流石メローネとイルーゾォ」

流石と言った瞬間、違う方角からどういう意味だと聞こえたのは、気のせいということにしておこう。
それにしても、いくらメローネやイルーゾォといっても、日本語を話せるとは思っていなかった。
どこまで話せるのだろうか?

「何が難しいって、巻き舌はしちゃあいけないんだぜ?辛いだろ」
「そうなんだよ、メローネ……でもみんなには頑張ってもらうから!」
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