短編集

□左右不対象
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アシンメトリー。
つまりは、左右不対象。つまりは、バランスが悪い。つまりは、ぐちゃぐちゃ。

そのアシンメトリーな髪をなびかせて、滑稽なマスクを着けて、ただ男はそこに立っていた。
無機質な機械の音と、生を交えた人の声、だがその中でも抜き出て奇抜なその男ですら皆通り過ぎて行くくらいの騒ぎよう。

「俺は、死んだんじゃあなかったのか?」

男は、一言呟くとはぁとため息をついて、その場へすたれこんだ。
手袋をはめたまま、男はこれでもかというほど自らの頭を掻きむしった。
眉間にしわを寄せて、苦し紛れに号泣する。ぼたぼたと流れ落ちる男の滴は、渇く様子も見れない。

男が自らの頬に手を当てがって、そのままするすると首筋に下ろして、脈を確認しようとした時だった。
男の真後ろから、女性の声が聞こえた。あの・・・という透き通るような女性の声が男の耳をくすぐって、脳を過る。

「俺に気がついたのか?」
「えぇ、勿論。
だって、そんな奇抜な格好をしているじゃあないですか。」
「それでも、皆俺に気がつかなかった。」
「きっと、皆気にしていないだけですよ。」

女性は、男を励ますように声をかける。
男は、先ほどとは打って変わって、照れ臭そうに頭をかく。
男は、頬を少し朱に染めて、眉間に軽くしわを寄せて、苦笑いする。
女性は、少し話すと男に手を差し伸べる。男は、それをおぼつかない様子で、取った。

「大丈夫?」
「あぁ、ありがとう。助かった。
ところで、何の用だ?」
「それは、その・・・・少し来てくれる?
ここでは、話せないし大切な話なの。」

男は、あぁと軽く返事を返すと、女性の後ろをついていく。
そして、男は気付き始めた。自分自身の体の変化について。

「で、大切な話って?」
「心して聞いて欲しいの。」
「何だよ、俺ら初対面なんだけど?」
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