短編集

□言うなり
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ある男が、コロニーの通りをふらふらとぎこちなく、歩いている。その歩調は、今にもこけそうで、危うく、足取りもしっかりとは、思えないほどだったのだ。
どうやら、買い物帰りのようで、松葉杖をゆっくりとつきながら、歩いている。
その顔には、眉間にシワが寄っていて、鬼のような形相だった。

ふらりとその男がこけかけた時だった。通りかかった一人の女性がその男を抱きかかえしっかりと、支えになった。
「危なかった。」
「すまない。」
男は、バッと顔を上げると、深々とお辞儀をする。女性は、いいのいいのと言った。
女性は、ハッとした。彼女は男の顔を見て、絶句した。男の顔は、約半分が火傷のあとで覆われていて、半分が白い美青年の肌だったからだ。

「そのお顔。」
「あぁ、これか。少しばかり戦争でな。」
男は、自らの顔半分を撫でながら、戦士の勲章だなどと言っている。どうやら、男は戦士で、戦争での負傷者のようだった。おそらくそのリハビリ中なのだろうと、女性は、推測した。
松葉杖がそれを物語っている。

「すまなかったな。助かった。名前は?」
「名無しさんです。」
「そうか、私はグラハム・エーカーだ。名無しさんさん。」
グラハムと名乗ったその男は、ぱっぱと荷物を抱えると、それでは、と言って去って行く。
名無しさんは、そのグラハムの後ろ姿をぼけーっと見つめていた。

【人は、これを運命と呼ぶ。】
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