Novel

□12月31日
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片手が、ついで背中と後頭部がカーペットに縫い付けられる。反転した視界に、ユースタス屋の赤い髪が迫った。

「――ン」

唇が、ユースタス屋の唇に塞がれる。ちょっと酒臭い。けれどその唇から本気以外のものは感じない。
ファスナー1本ではだけた胸の尖りをくすぐる楽しげな指。待ち望んだ熱い舌。そっと開けた隙間に、ゆっくりと滑り込んできた。もうそれだけで、俺の頭と…脚の付け根が、熱に浮かされる。

「ん、ンン…ふ…」

テレビを消したせいで欲情しきった自分の甘ったるい声と、舌が絡み合う水音が耳に届いてしまう。だめだ。恥ずかしすぎる。リモコンを探り当て、電源ボタンに指をかけるが、

「こら、何してんだよ」

キスに集中しない俺から、ユースタス屋がリモコンを奪って放る。

「テレビ、つけてェんだけど…」
「却下。声とか音とか聞こえねェだろ」
「お、音って……」

俺の脚のあいだに体を滑らせた恋人が、わかってんだろ、と言いたげな、いやらしい笑みを浮かべる。
わかってるよ、わかってるけど、会話してなきゃ恥ずかしすぎるんだよ。

「お前のコレが、ぐちゃぐちゃになる音とか、な」
「ひ、ぁっ…!」

言いながら、ごつい手がするりと脚の付け根を撫でる。
キスだけでもう半勃起してるのが、きっと今のでバレた…。

「安心しろ、…俺もだから」
「……っ!」

耳元で囁いたユースタス屋の悪戯な手が、俺の腰にかかる。ジャージのズボンはジーンズと違って簡単に脱がせられる。少し腰を浮かせただけで、ジャージの下が剥ぎ取られた。

「ひゃ、あああぁ!!」

隠すもののない俺の中心をごつくて熱い手が包み込む。乱暴な刺激を覚悟したけど、与えられたのは優しく真綿をくすぐるような、繊細な指の愛撫。ぞくぞくと背を快感が駆け上がっていく。

「ン、ぁ、やぁ、やだ、ユースタス屋ぁっ…!」
「イヤな割には…濡れてきたぜ」

言うな馬鹿、わかってるよ…。
ユースタス屋に脚を割られるまでもなく、俺は自分から脚を開いて腰を揺らして、快楽をねだっていた。
時折正気に戻る頭が「はしたない」と警鐘を鳴らすけど、…ユースタス屋も楽しんでるし、ちょっとくらい頑張っても…いいよな。
雑音の消えた部屋に小さな水音だけがよく通る。骨張った大きな手を濡らしていく、俺の…白い液体の音。

「ほら、聞こえるだろ…お前の、音だぜ」
「ッ…バカ!!…っあ、ん…はぁあ…っ…」

ユースタス屋に煽られるたび、にちゃ、と粘着性の音が増す。手を上下させる男の喉がごくりと鳴った。その音が、俺を更に大胆にする。

「ゆ、すたす、や…、中も……して…」
「――ああ」

余裕をなくして真顔で返事をしたユースタス屋に、今さらだけどドキリとした。ユースタス屋、俺と本気でセックスしてェんだ。ずっと、恋い焦がれてた奴が。本気で…。

(大晦日パワー、すげぇ…)

12月31日という神様に、感謝だ。

前で遊んでいた長い指が、つう…と下降していく。白い蜜が流れ落ちる先、その窪みに黒い爪がたどり着いた。

「ッふ、あ、あっ……」

はじめ遠慮気味にゆっくりと差し込まれた爪は、中を突く毎に次第に動きが激しくなっていく。クチュ、グチュ、と蜜がからだの奥に捩り込まれる度、どうしようもなく甘えた声が出た。

「あッ、あ、ユースタス、やぁ…、すげ、きもちい…っア、」
「…っ、エロい顔、してんじゃねェよ……」

咎めるような言葉が聞こえたが、明らかに欲情を無理矢理抑え込んでる声だった。とろけた視界に、見下ろしてくる男の赤い眼がぎらぎらと輝いていた。
俺がエロくなってるならお前のせいだ。俺に快楽を教え込んだくせに、今まで放置して、誰にも邪魔されないシチュエーションまで用意して、俺に慎ましくしろとでも言うのか?

「トラファルガー、…いいか」

濡れた手がゆっくり俺の脚を抱え上げていく。熱い吐息の向こうにぼんやりと見えるユースタス屋の剛直は、まるで凶器だ。さすがに怯む。

「…は、入る、かな…それ……」
「1回入ってんだろ。…まあ、無理なら…やめとく」
「…やめろとは、…言ってねェけど…」
「んじゃ、がんばれ」

無責任な応援と苦笑いを浮かべて。

「今年もよろしく、――ロー」

遠くに聞こえる除夜の鐘。俺の好きな低い声。
テレビ、消しといて良かった。
ユースタス屋をもう離したくないといってる俺の音も、俺を離さないといってるユースタス屋の音も、ちゃんと聞こえるから。

明日の初詣は、神様に感謝を伝えないと。
背中を押してくれてありがとう。
特別な日をありがとう。

…できれば俺の腰がそれまでに回復していますように。





おわり
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