夕闇ポップス

□第4話
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「――喰種。人を殺し喰らう生き物。人間の食べ物は受け付けず、体内に入れると健康を害する。赫子と呼ばれる捕食器官を持つ。赫子は四種類あり、羽赫、甲赫、鱗赫、尾赫に分類される。赫子には相性がある。赫子発動時には赫眼になる。人間社会に紛れて生活する者や喰種で群れて組織を作る者、放浪者など生き方は様々……と、まあこんなところか?」
「うん」

膝に片方の頬を付け、ちょこんと座っている凛桜と、その彼女の方に若干身を乗り出しているクロロ。
二人はかれこれ1時間ほど、この状態である。

「赫子の相性とは?」
「ああ、んー。シャルさん、ちょっとこっち来て」

飽きて面倒になってきたのか、凛桜の受け答えが適当になりつつある。
シャルナークは言われるままに傍に寄ると、彼女はちょいちょいと座るように指で目の前をさした。

「まず羽赫。肩のあたりにある。この辺かな」

つっと凛桜の指がシャルナークを撫でる。
触れるか触れないかの距離感で。

「羽赫は高速攻撃が得意。ただし持久戦に向かない」
「何故?」
「体内にあるRc細胞を放出することで、赫子は出現する仕組みになってる。羽赫はガス状の赫子だから、常にRc細胞を出しっぱなしの状態。だから持久力がないの」
「赫眼の正体も、その細胞か?」
「そうだよ」

次、とシャルナークの肩甲骨の下が囲まれる。

「甲赫。金属質の赫子だから一番硬い。重いからスピードが殺されるけど、耐久力がある。だから甲赫は羽赫に強い」
「……なるほどな。相性か」
「その次は鱗赫。私が持ってるやつね」

腰をつんつんと軽くつつき、凛桜が自分も指さす。
つつかれたシャルナークが居心地悪そうにもぞもぞと動いた。

「鱗赫は結合力に優れてるから再生力がある。けど、結合のしさすさは脆弱さにも繋がってるから、再生力を超える傷を負うとひとたまりもないのが弱点」
「結合のしさすさは脆弱さにも繋がってる……?」

シャルナークが振り向く。
クロロも僅かに首を傾げ、考え込んでいる。

「くっつきやすいし離れやすいってこと」
「ああ、なるほど」
「鱗赫は一撃一撃が強いから、素早く動けない甲赫に有利。……んじゃ次最後。尾赫」

ぶす、と勢い良く尾てい骨に指の腹が刺さる。
場所が場所なだけに、シャルナークは飛び上がった。
バッと少女を振り返り、抗議の声を上げる。

「特に弱点もないしバランスに優れてるけど、決め手に欠ける。しっぽみたいな赫子だよ。中距離戦に対応してて、短所もないから鱗赫は攻めにくい。ただし、短距離長距離共に得意な羽赫に弱い」
「ちょっと、女の子がそんなとこ触らないの!」
「だってクロロさんが物凄く早く知りたそうにしてたからー」
「最初はほとんど触れてなかったよね!?」
「あはははは」

笑ってかわした凛桜である。
シャルナークは若干赤い顔で、彼女をむすっと睨んでいる。

「……団長。終わたよ」

奥の部屋から戻ってきたフェイタンが、クロロに声をかけた。
また考え込んでいたクロロはそれに我に返った顔をして彼を見る。

「ああ、ご苦労。どうだ?」

クロロに歩み寄り、フェイタンはジロリと凛桜を無言で見下ろした後、フンと鼻で笑った。
凛桜は何故馬鹿にされたのか分からず、首をかしげている。
きょとんとしている彼女から目を逸らし、彼は何事も無かったようにクロロに報告を始めた。

「北にアジトあるよ。大規模な研究機関、言てたね。人体実験したり違う世界の生き物連れてきたりしてる」
「……私の他にもいるってこと?」
「そういうことになるな」
「へぇ……?」

何かが気にくわなかったのか不穏な空気を纏わせ始めた凛桜の横で、シャルナークがのんびりと声を上げた。

「そういえば、さっきの奴が被検体No.6≠チて言ってたよね」

わざわざナンバリングをするということは、これまで凛桜の他にも少なくとも5人、境遇の者がいると考えるのが妥当だろう。

「異世界の生物を連れてくる目的は何だ?」
「兵器にすること」
「戦争でも起こそうってのか?」
「国の政権握りたい言てたね」

凛桜が眉間に皺を寄せた。
不愉快そうに渋面を作る彼女に、シャルナークが訊ねた。

「そういえばさ、よくアレに抵抗できたよね?俺達を殺せって命令されてたけど」
「そーだね」
「軽いなぁ。答えてよ」
「……夢で、殺しただけだよ」

殺しても殺し足りない、あの人間を。
未だあの頃に囚われている自分の心を。

「殺したら目が覚めて、目の前に知らない人間がいたから」

お腹が空いてたから。
自分の体が弱っている事を、瞬時に把握したから。
食べたら、途端に元気になった。

そういえば殺すことが念頭にあったせいで忘れていたが、彼の肉は味わったことのないものだった。
妙に濃厚で、芳醇な香りもしていた。
場所が変わると味も変わるのだろうか。

「……おもしろ」

思ってもいない感情を口にする。

ふとした瞬間に、自分の中の均衡が崩れてしまわないように。
自分の中の何かを誤魔化すように。

「お前――、」

クロロが僅かに眉を顰める。
何もかも見透かされているような気がして、凛桜は目を逸らした。
クロロと、自分の心から。
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