夕闇ポップス

□第2話
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凛桜の熱が下がらないまま、5日が過ぎた夜。
解熱剤や栄養食を摂取させても凛桜はすぐに吐き出し、意味を成さなかった。
一応(闇)医者も一度呼んだが、予想通り原因は不明。診察料だけで法外な額を請求されただけで終わった。

「……このままだと危ないな」
「だいじょーぶだよぉ…」

危惧するクロロとは真逆に、当の本人はあっけらかんとしているのだが。
5日もまともに食べておらず、熱にうなされている一般人が大丈夫なはずがない。

「たぶんね、明日くらいには治るよ」
「勘か?」
「ん、まあそんな感じ」

仲間内に飛び抜けて勘の鋭い者がいるクロロは、なんとなくそれを信じた。
凛桜の額に水で冷やした布を乗せ、汗で顔や首に張りついた髪をはらう。熱で潤んだ目をうとうとと細め、まるで引きずられるように少女は眠りに落ちた。
それとほぼ同時に、少し離れた机の上でクロロの携帯が着信を知らせる音を立てた。
気配と足音を消して大股で近付き、携帯を取り上げて通話ボタンを押した。

「なんだ」
『あ、団長。今回のメンバーが全員集まったよ』
「そうか。今から行く」
『了解。じゃあ、後でね』
「シャル」

いつも通りの短いやりとりを交わした後、切ろうとした相手を止める。

『ん?』
「1人、連れがいる。病人だ」
『……え、は?』
「そいつの分の部屋を用意しておいてくれ」
『ちょ、団長それどういう―――』

シャルナークが聞き返すのを無情にも聞き流し、彼はぶちっと通話を切った。
右手で前髪をかき上げ、オールバックになるように後ろへ撫で付けた。
眠る凛桜の横を通り抜け、クローゼットからコートを取り出して袖を通す。
携帯をポケットに突っ込むと、クロロは凛桜に近付いた。
乗せたばかりの布を外し、無造作に枕元に置く。
掛け布団を引っぺ返すと、凛桜は眉を寄せて寒そうに呻いた。
彼女の上体を起こし、背に手を当てて支える。慎重に膝裏にもう片方の腕を差し入れ、ゆっくり抱き上げた。
凛桜は揺れた体に不思議そうに瞼を上げたが、数回瞬いただけで再び眠りに落ちていった。

「さて……」

ぐったりしている少女を腕に、クロロは扉とは反対側の窓へ足を向けた。
即ち、外に通じる窓へと。
クロロ達が宿泊しているのは、高層ホテルの最上階である。
その窓を大きく開け、ベランダに出る。
1階の窓から出るかのような気軽さで、彼は細い柵にひょいと乗り移った。
間違っても、地上数メートルといった高さではない。ネオンに輝く街を眼下に見渡せる程の高所だ。
落ちたらひとたまりもない



はずだった。



二人の身体が、柵の外側へ投げ出される。
勢いも凄まじく落ちていくのを表情ひとつ変えず、クロロは凛桜を風から庇うように抱え直した。
ある程度落ちたところでホテルの壁を蹴り、勢いを殺して隣の低いビルの屋上へと着地した。
そこから南西の郊外まで、一直線。
屋根を跳び越し続け、5分も経たず目的地へ到着していた。

「シャル」
「団長!さっきの電話どういう……その子誰?誘拐したの?それとも拉致?」

姿を確認するや否や問い詰めてくる青年をかわし、クロロはその場――廃墟の中にいる全員を見渡した。
シャルナーク、フィンクス、フェイタン、マチ、そして。

「……今回は来たのか」
「妙な事が起こりそうだってマチが言っていたからね。面白そうだと思って」

ヒソカ。顔に雫と星のペイントを施した奇抜な格好の男だ。
彼の切れ長の目が、クロロの腕の中へと移される。
見定めるようにその目を細め、ヒソカがにたりと笑った。

「コイツは暫くここに置く。シャル、部屋に寝かせて来い」
「はいはい」

凛桜をシャルナークに預け(押し付けたとも言う)、クロロは瓦礫の上に腰を下ろした。
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