夕闇ポップス
□第1話
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「ンーーー」
唇をへの字に曲げ、その少女は唸った。
腰に手を当て、仁王立ちをする。ついでに頭を左に傾けて首を傾げた。長く広がった袖でその手は見えない。
顔立ちは東洋系。齢は16から18といったところだろう。
前開きのチャイナ服は胸の下からボタンがなく、腹をさらけ出している。その下には短めのスカートを着用し、腕とは対照的に足の殆どを露出していた。
ぐるり、と目だけで周囲を見渡し、視線を目前に戻す。
正確には、目の前の男に。
暫しの沈黙ののち、少女は曲げていた口を開いた。
「ここ、どこ?」
問いかけられた男は、時間にして二秒ほど考え込んだ。
国名か、都市名か、はたまた大陸名か。どれを答えるのが良いのかと迷ったのである。
「…ヨルビアン大陸の西にあるヨークシンシティだが」
「ほあ?」
5メートルほど離れた場所で仁王立つ少女の目が、きょとんと丸くなった。
「そこ――いやここか――って、都会?田舎?」
「大都会だ」
確かに二人が佇んでいるのは人気のない狭い路地である。薄暗く、都会からは一歩引いたような場所だ。
箱入り娘です、といったような世間知らずとは明らかに異なる反応に、男は眉を寄せた。
「じゃあさ、お兄さん。日本って分かる?東京は?」
「知らないな。地名か?変わった名前だな」
「ええー。先進国なんだけど」
困惑する少女を、男――クロロ=ルシルフルはじっと観察していた。
自分をおちょくって楽しんでいるようには見えない。本気で困っている顔だ。
そもそもの事の発端は、彼女が何の前触れもなくクロロの行く先に現れたことから始まる。
文字通り、現れたのだ。
何も無かったはずの所に、突如。
瞬間移動の念を使う能力者か、と身構えた彼を見て、少女は彼の予想に反し酷く驚いた表情を見せた。
そして、冒頭へと繋がるのである。
「お前は何だ?ブラックリストハンターかと思ったが…、そもそも精孔が開いていないな」
「しょーこー?はんたー?…そうだねぇ、私は何か?とても哲学的な問いだね。ちょっと待ってて、生涯かけて見つけるよ」
「…そういう意味で言ったんじゃないんだが」
真面目に返答してきた少女に毒気を抜かれ、クロロは警戒を少し解いた。
少女に敵意は全くと言っていいほど無く、突然出現したこと以外は至って普通の、どこにでもいそうな雰囲気を纏わせている。
少々会話が噛み合わないが、可愛らしい程度のものだ。
「名前は?」
「凛桜」
「年齢は?」
「じゅうはち」
「親は?」
「いないよー」
「ここに現れるまで、どこで何をしていた?」
「東京20区の喫茶店あんていくで優雅なコーヒーブレイクをしようとしていたよ。お店のドアを開けたと思ったんだけど、何でかここにいたんだ」
のど乾いた、とぼやく声を聞き、クロロはひとまず凛桜を連れて喫茶店へ行くことに決めた。
彼女に興味が沸いた、というのが一番の理由であった。