夕闇×〇〇

□V
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いつ訪ねても「ああ来たの」程度のリアクションで受け入れ、好き勝手しても怒らない。何日も立て続けに訪れようが、数週間顔を見せずにいようがその態度は変わらず同じ。痴情のもつれなど我関せずといった様子で束縛する気がさらさらない。

それが凛桜という少女だ。

出会った時は周り全てを珍しがり、ザップに案内を頼んだほどHLのことを何も知らなかった。
まだ20にも満たない歳の少女だが、妙に大人びた考え方をしていた。
全てを諦めているような、達観しているような。宙に浮いているようで地に足はついているような。
そんな、どこか浮世離れした魅力があった。

目を見た時に瞬時に気付いた。彼女は一般人ではない、と。

濃厚な裏社会の気配と時折ちらつく狂気じみた瞳。
声をかけたと同時に、やめておけばよかったと後悔した。下手に関わると噛みつかれると思ったからだ。
頼りなさそうな外見に反し、中身は猛獣だ。

しかし、凛桜はザップの予想とは真逆のリアクションを返した。
ぱっと嬉しそうに笑い、街の案内を頼んだのだった。
笑顔はただの少女のように見えたので、少しばかり面食らった。
「こいつはやばい」と思ったのも、そう感じたことも間違いはない。猛獣の気配はまだそこにある。
だがその猛獣に襲いかかってくる様子はなく、むしろ友好的に人好きのする表情で仲良くしようと爪を引っ込めている。

ザップは深く考える方ではない。
少女の顔がアジア系の可愛らしい造形だったということもあり、二つ返事で街の案内を引き受けたのだった。


それからなし崩し的に彼女の家はザップの寝床になり、体の関係も持った。
相変わらず凛桜の方からは何か物騒なことを仕掛けようとする気配はなく、楽しくバイト三昧の毎日を過ごしているらしい。
少々きな臭い場所でバイトをしているようだが、そこまで害はない組織の末端なので気に留めることでもない。

明らかに危険な気配を漂わせながらも本人は特に何もしない。無自覚なのかと思うほど、言動は普通の少女だった。

おかしなことと言えば冷蔵庫に一切の食べ物がないくらいだろう。中のほとんどはザップの酒やつまみで埋め尽くされている。
凛桜のものといえば水くらいなものである。
そういえば食事をしているところも見たことがなかった。
よほどの偏食なのか、肉付きも悪い。

ザップとしては痩せすぎている女より豊満な女の方が断然好みだが、凛桜に食えと何度言っても首を振られてばかりなのだ。
鏡に映っているところを何度も見たので血界の眷族でないことは確かなのだが、彼ら並に謎が多い少女である。

「……ま、そこが面白いんだけどな」

チーンとエレベーターが鳴る。
目的地に到着したザップはいつものようにライブラの中へと入って行ったのだった。
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