夕闇×〇〇

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車輪の代わりにそりをつけた雪馬車──馬橇の中。
凛桜は最新式の銃を弄り回し、装填していた。

「今から会う渋川善次郎という男は入れ墨を持つ囚人ではないが、最近になって樺戸集治監を出所した」

土方の隣にちょこんと座り、慣れた手つきで銃を触る様子は妙な具合にしっくり馴染んでいた。

もっとも、凛桜はあまり銃を使わない。
身体能力は高いので扱いは上手いのだが、「撃つより殴った方が早い」という、元も子もない理由があった。

「盗賊団の頭首で手下からの信頼も厚い。昔の手下を再び集めて、小樽近郊に潜伏しているという情報をつかんだ」

凛桜と同じく、銃に弾を入れていた牛山が眉をひそめた。

「手下ごと仲間に引入れようってもくろみかい。いきなり押しかけてうまくいくかね」

彼も凛桜と同じで銃よりも手が先に出るタイプだが、凛桜がそれを知るのはまだ少し先のことである。

「昼間に使者を送ったが戻らん」
「そら、もうこじれてるじゃねえか。そこの嬢ちゃんの時みたいな幸運はそうそうないってこった」

右手にライフルを持つ土方の左手は、常に腰にある刀に添えてあった。
本物の刀が珍しい凛桜はじっとそれを見ている。

「ならず者を率いる渋川善次郎の手腕は是非ほしい。間違っても渋川は殺すな」
「こっちは俺とジジイと凛桜、若いごろつきで合計九人。永倉じいさんの情報じゃあ盗賊団は十二人。交渉が決裂したら、その時は不利だぜ」

十二対九。相手は訓練もされていない、ただの盗賊団だ。
凛桜の敵ではない。

完全になめきって興味もない少女の横で、土方はライフルを持ち直した。

「いつだって頭数は当てにならんかった。戦力になったのは、命を捨てる覚悟が出来ていた者だけだ」

その言葉に、確かに彼は新選組の副長だったのだと凛桜は楽しげに目を細めた。

「──生き残りたくば死人になれ」

嗚呼これは、退屈せずに済みそうだ。

銃を懐にねじ込み、凛桜はくつくつと喉奥でわらった。
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