Girlish Maiden
□Z
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シリウスと会話をした日の夜──昨日のことなのだが、多量の仕事と格闘していた飛鳥は気が付けば机に突っ伏した状態で寝ていた。
起きた時間は真夜中の三時で、それもローブに入れていた携帯が振動したからであった。
飛鳥の携帯を知っているのは零だけなので、表示も見ずに電話に出た。今いる場所と何をしているのかを尋ねられ、彼が迎えに来る気であることを悟った飛鳥は丁重にそれを断った。
この場所は誰にも見つけられないし、教えられない。何らかの方法で割り出そうとしても機械が壊れるだろう、と。
今日は帰れそうにないので泊まり込むことを伝えると、零は了承すると共に「食事はしたのか」と低い声で飛鳥に聞いた。
食べていないことをほぼ確信しているそれに、「食べたよ〜」と平然と嘘を吐き、飛鳥は追及される前に強制的に通話を終了させた。
「……零くんこわ……。うち、尻に敷かれてへん……?」
と身を震わせながら、飛鳥は再び紙の山を片付ける作業を再開させたのだった。
その数時間後。
飛鳥は再び電話していた。
『あら、飛鳥ちゃん!携帯を買ったのね?』
明るい声が小さな機械を通して耳に届く。
嬉しそうなそのトーンに自然と頬を緩め、飛鳥は返事をした。
「お久しぶりです、有希子さん。数日前に買ってはいたんですけど、忙しくて……。すぐ連絡できなくてすみません」
『いいのよ、そんなこと!それより、いま日本にいるのよね?新……コナン君から聞いたわ』
「はい。……コナン君から何か、聞かれましたか?」
飛鳥の質問に、有希子が少し考え込む。
数秒後、彼女は調子を落として話し始めた。
『飛鳥ちゃんの素性と、私達との関係をね。飛鳥ちゃんのいないところで詳しく言うわけにはいかないから、はぐらかしておいたわ』
「ありがとうございます。それと有希子さん、あの沖矢昴とかいう人とはどういうご関係ですか……」
『うーん、そうねぇ……。飛鳥ちゃん、今度の週末、うちに来てくれるかしら?あなたのこと、ちゃんと新ちゃんに紹介しなきゃいけないし。その時に話をしましょう』
「分かりました。では、週末に」
魔法界も土日が休みであることはマグルと同じである。そのため、飛鳥は有希子に予定を合わせられる。
……何事も起きなければ、の話だが。